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雷閃がアクマだと囁く。イノセンスである彼がそう言うのなら間違いないだろう。
「何言い出すかと思ったら。悪魔? ハッ、お嬢ちゃん、時代錯誤もいいとこだね!」
「行方不明者も貴女の仕業でしょう? この下。結構居ますね」
指し示したのは床。地下室があり、そこに居るらしい。
「何のことだか。お嬢ちゃん、妄想もそこまでにしなよ。なんなら頭を診て――」
「御託はいい。さっさと化けの皮剥がせ」
神田が六幻を突き付ける。目の前の女――人の皮を被ったアクマが顔を歪ませ、舌打ちする。
「どんな原理だか知らないけど。何で分かったんだい?」
「イノセンスが」
とん、と米神を人差し指で突く。
「そうかい、まったく、これだからイノセンスは嫌いなんだよ!」
「こっちから質問です。行方不明者は、どこ?」
「ハン、みーんな伯爵様に献上したよ! トルテで釣って、片方を目の前で殺してやれば、すーぐ縋りついたさ!」
兄弟の絆を利用されたか。偶然仲がいい兄弟ばかりだったようだな。そんなことを考えていると、女が変形し始める。それに合わせたかのように、背後からレベル1のアクマが群れをなして、床板を突き破って出てきた。鎌を巨大化させ、神田と背中合わせになる。女の皮を破って出てきたのは、6本の長い足のある生き物。それはまるで――。
「蜘蛛か。レベル2だな」
「ッ、や、やだやだ!」
「……おい?」
「蜘蛛とかマジ無理有り得ねェ! 無理、デカイし、マジねーわ!」
大きな身体から生えた6本の太い足。全身毛むくじゃらだ。赤い複数の目がこちらを見る。タランチュラを思わすその姿に、思わず叫んだ。
ただでさえ虫が苦手だというのに、蜘蛛が天敵だというのに。あの大きさを相手しろと? 冗談じゃない、有り得ない。蜂の子を食べるくらい有り得ない。
蜘蛛型のアクマが糸を吐いた。ひぃ、と喉が引き攣ったような悲鳴を上げて避ける。粘着性のあるそれはレベル1のアクマの1体に付着。そのまま口元へ引き寄せたかと思うと、鋭い牙で噛み砕き食べていく。
[おやあ? 逃げられちゃったみたいだねえ]
咀嚼しながら蜘蛛が言う。気持ち悪い。
「かか、神田! そっち任せた! 雑魚は任せて! そんなの相手するくらいなら死んだ方がマシ!!」
「チッ、分かったよ!」
蜘蛛型のアクマを神田に押し付け、自分はレベル1の群れへと肉薄する。
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