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「お菓子の家を探そうか、お兄ちゃん!」

「誰がお前の兄だ!」


ただ今森の中。冗談混じりで叫ぶ。怒鳴り返された。


「……他人に嫌われたくない甘チャンかと思ったが、違うんだな」


突然口を開いたかと思えば、そんなこと。先程のリヒトに対する言葉だろう。


「あは。他人に媚売るなんて、きっもちっわるぅーい」


節をつけて歌うように答えれば、鼻で笑われた。

森を進んでいくと、小屋が見えてきた。何の変哲もない小屋。壁はチョコレートではないし、屋根はクッキーじゃない。少し残念。
扉を叩く。はいはーい、と中から凛とした声が聞こえてきた。出てきたのは黒髪の女。身体のラインが分かるぴったりとした服が、豊満な胸を誇張する。思わず目が釘付けになった。何を食べたらそうなるのだろう。食生活を聞きたい。
そんな不埒な思考はいざ知らず、女の目が胸のローズクロスに注がれる。


「あらん? あんた達、この間来た奴の仲間かい?」

「はい。詳しいお話を聞きたくて」


こういうのは神田は得意じゃない。代わりに私が相手をする。不機嫌そうになった女が頭を乱暴に掻く。
「何? あんとき話したじゃない。……まあいい、入んなさい」


言葉に甘え、中に入る。


「神田。この匂い」


神田が眉を寄せる。中からは甘い香りが。子供の証言でも甘い香り。何か関連性はあるのだろうか。


「ああ、それはキルシュトルテだよ」


コーヒーを淹れながら女が言う。そこに座りな、とテーブルを指された。
しばらくして女がキッチンから顔を出した。コーヒーと共に出されたのが、切り分けられたケーキ。さくらんぼがのっている。これがキルシュトルテだろうか。聞くと手作りらしい。ケーキ屋でも営めばいいと思う。それにしても、神田とケーキほど似合わない組み合わせはない。


「それで、何の用だい?」


女はコーヒーを啜る。私も神田も、出されたものに口をつけない。


「単刀直入に言います。貴女、アクマですね」


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