08
相槌ばかり打っていたラビが唐突に口を開く。


「にしても、朝っぱらからイノセンス使って動いて、食う量それだけなんさ? 元々小食でも少なくねェ?」

「そうね、科学班の皆と似たような位だし……。装備型でも少なくないかしら」

「そう言われてもなー……」


腹が減らないのだから仕方がない。無理に食べて戻すのももったいないし。
パンナコッタがつるりと喉を伝う。ふんわりと香る赤いソースは苺か。小さなグラスに入ったそれは、すぐに無くなった。少し物足りないくらいだ。だが、これは生クリームを煮て、ゼラチンで固めたもの。カロリーは高い。パンナコッタ、恐るべし。


「ま、任務に出てれば少しは増えるんじゃない?」

「そうかねェ〜」


そう言ってこちらに向けてきたのは記録者の目。何か記録することでもあっただろうか。ああ、食事の量か。そんなものを記録して何になる。

他2人も完食したことだ、オレンジジュースを飲みながら談笑していると。


「おう、リーバー。相変わらずすげェ(くま)だなオイ」

「おー、お前らか。新人エクソシストって彼女か?」

「イエス。#一条#黎音です。よろしく」

「オレはリーバー・ウェンハム。科学班の班長をやっている」


自己紹介と共に出された右手。その意味は知っている。一応こちらも手を上げるが、リーバーには触れず、自分の頭に持っていく。無意味に、髪を梳いた。


「ごめんなさい。握手って、慣れないんだよね」


困ったように笑えば、相手も手を引いてくれて。日本じゃそういう習慣ないからと言って、触れられるのを拒否する。どうにも、直に触れられるのが嫌なのだ。服の上からならまだしも、直接皮膚と皮膚が触れ合うのが気持ち悪くてしょうがない。


「それで、何の用ですか?」

「ああ、コムイ室長が呼んでた。任務らしいぞ」

「ペアは誰?」

「神田だ」

「ええー! 初任務ユウちゃんとなんかー!?」

「頑張ってね!」


ラビは不満そうな声、リナリーは楽しそうな声を上げる。
神田とペアか。私が広範囲に効く大鎌、神田が対少数が得意な刀。武器としては相性がいいだろう。
ただ、性格の面で相性が合うか。リナリーはああ言っていたが、昨日『気に喰わない』と言われたのだ、私のことを嫌っていることだろう。今朝の稽古で嫌悪が少しは緩和されていると助かるが。

別に好かれようと嫌われようと、私には関係ない。好かれたのなら一緒に居るし、嫌われたなら放置するまで。だが任務に支障が出るとなると考えものだ。いや、任務に忠実な神田のことだ、私情なんかよりも任務を優先することだろう。


「そんじゃ、行ってきます」


2人に手を振り、別れを告げる。さて、初任務、どうなることやら。


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