05
パタパタと走ってくる足音。音の方向に目を向ければ、リナリーがいた。


「二人とも、お疲れ様」


はい、と渡されたのはタオルと水。気が利く。喋る気力ももうなくて、無言でそれを受け取る。汗を拭くよりも先に、水に口をつけた。身体に染渡っていく。


「黎音、凄いわ! 神田を相手にあそこまで戦うなんて」

「あはは、そう?」


風呂に入りたい。汗が気持ち悪い。タオルで汗を拭うのはいいが、顔や首は拭えても、服の中までは拭けない。人前で脱ぐわけにもいかない。女同士ならまだしも、神田もいることだし。

そんなことを思っていると、神田が水を仰いだ。グラスには注がず、水差しのままで。口の端から零れた水が、蠕動(ぜんどう)する喉を伝う。一気に水差しを空にすると、リナリーにつっ返し、乱暴に口元を拭う。
どうにも野蛮な行動だが、綺麗な顔なものだから絵になる。美形は何をやっても様になる。ただしイケメンに限るという言葉が作られるわけだ。

転がった六幻を鞘に戻す。ついでに小さな何かを投げつけられた。キャッチして手の平を覗くと、それは小さくなった鎌だった。さっさと修練場を出ようとする。その背中に言葉を投げた。


「神田。またよろしく!」

「……いつでも相手してやるよ、チビ」

「だからチビって言うなこんちくしょー!」


前言撤回。顔だけイケメンでも口が悪ければ台無しだ。顔も心もイケメンに限る。

拳を振り上げるが背中を向けている神田は見もしない。イラつく。クスクスと笑い声が聞こえてきた。傍らのリナリーが、微笑ましそうに笑っている。


「……何笑ってんの、リナリー」

「ふふ、神田と仲良くなったのね」

「えー……嫌われてると思うけど」


現に気に喰わねェと面と向かって言われたことだ。そうか、あの時リナリーはいなかったか。


「だって神田、満足そうだったわよ。あんな表情、久しぶりに見たわ」

「満足そう? ずっと不機嫌じゃなかった?」

「皆そう言うけど。神田ほど分かりやすい人は居ないわよ」


神田が、分かりやすい? 経験の差か。リナリーと神田は幼馴染のようなものだし。見慣れれば表情が分かるということか。表情を読むのは得意だと思っていたのだが。上には上がいるようだ。


「そういえば、なんでここに?」

「一緒に朝ごはんを食べようと思って黎音の部屋に寄ったのよ。でも、居なかったじゃない。図書室にでも行ったのかと思って下りてきたら、ここから戦闘音が聞こえてきて。覗いたら、二人が戦っていたんだもの」

「なーるほど。ありがとね、タオルと水」

「どういたしまして。ね、朝ごはん、一緒に食べましょ。あんなに動いたんだもの、お腹空いてるでしょう?」


その問いに頷く。立ち上がったリナリーに手を差し伸べられ、その手を一瞥。取ることはせず、自力で立ち上がった。


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