03
「…………はぁ?」
数秒かけ、彼の発した言葉を噛み砕いた後の、間の抜けた声。どうして自分の名前を知っているのだとか、何故そんな大層なモノの適合者が自分なのかとか、そんな疑問を通り越して、ただただ呆れた。
馬鹿馬鹿しい。自分が漫画の世界の代物、しかも選ばれた人間しか使えないようなモノの、適合者な筈がない。
彼はそんな私の反応が気に喰わなかったらしい。片眉を上げ更に言ってきた。
《お前の大好きな漫画だぞ。D.Gray-man。当然分かるだろ?》
いや、それはわかっている。
《適合者だから、その世界に行ってもらう。了解?》
夢、なのだとしたら、これは私の願望か。ここまで二次元に行きたいと思っているのか。なんというか、もう末期だ。
《おーい。大丈夫?》
固まってしまった私に、金の青年は苦笑を零した。
「……ちょっと待って。マジでDグレの世界に行くの?」
《そう。マジ》
「……百歩譲って、その話が本当だとして。イノセンスの適合者ってことはエクソシスト側だよね。私のイノセンスは?」
その問いに、青年は悪戯っ子のような笑みを浮かべる。
《オレ》
「……ハイ?」
耳を疑った。オレ、と聞こえた気がしたのだが。きっと聞き間違いだろう。そうだ、きっとそうに違いない。イノセンスが人の形をとるなど、聞いたことが無い。さしずめ、向こうの世界の神だとか、世界の番人だとか、そんなところだと思っていたのだが。
「ゴメン、上手く聞き取れなかった。もう一回お願い」
《だから、オ・レ》
今度はハッキリ区切って言ってくれた。しかも分かりやすく自身を指さしながら。
「へぇ、キミがイノセンスなワケか」
《そうそう》
「……はあ。なんでこんな電波が夢の中に居るんだろ……」
《うおーい、嘘じゃなくてホントだから。せめて話聞いてー》
「しょーがないなー」
正直、早く起きたい。起きてDグレの続きを読みたい。しかし青年が帰してくれないのだろう。なんとなく、そう悟った。仕方ない。青年の話を聞くために、床と思しき場所に座り込む。
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