02
いつも通りの放課後。いつも通り友達と喋って、いつも通り帰路について。いつも通り、私の大好きな漫画、D.Gray-manを読んでいた。
その筈なのだが。
「……えっと?」
見渡す限り、灰色。どこも同じというわけではなく、濃かったり薄かったりと、霧のようにその色を変えている。果てがないように見える。足場もない。だがここに立っていられるということは、床があるということなのだろう。同色で紛れているのだろうか。
この場には私以外に人が居るような気配はなく、障害物すらない。何も無いのだ。
「あー……うん。まず落ち着いて」
とりあえず、そう自分に言い聞かせてみる。
家で漫画を読みふけっていた私が移動したとは考えられない。そもそも、現実にこんな場所があってたまるか。恐らく、読んでいる内に寝てしまったのだろう。となると夢の中だということになる。はたして自分はこんな何も無い夢を見るのだろうか。思い当たる節はない。
この空間への疑問で頭をいっぱいにしていると、不意に、声が聞こえた。
《ハジメマシテ》
不思議な音だ、そう思った。耳が音を拾っているのに、頭の中に響き渡る。自分で発している声の聞こえ方に似ている。そんな音だ。
「誰?」
《お前を、ここに連れてきた者》
ここには自分以外居なかった筈だ。声の正体を掴めないかと辺りを見渡す。
背後に気配を感じた。そこに居るのか。振り返った瞬間、光が爆発する。稲妻に似たそれに、思わず目を閉じた。やがて光は収縮していく。何度か瞬きをして視界を回復させると、そこには少年とも青年ともつかない男が立っていた。
金の髪に、金の瞳。色白い肌に纏った白のラフな衣装。彼の特徴的な金の髪と瞳は、白の中で一相際立っていた。首にかけた豪奢な作りのロザリオは、飾り気のない服に似合わない。明らかに日本人ではない風貌に一瞬戸惑う。日本語以外に話せる気がしない。しかし先程の声が日本語だったことを思い出し、気を取り直す。
「何の、為に?」
《単刀直入に言う。黎音。お前はイノセンスの適合者だ》
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