01

「うじゃうじゃと……飽きないなあ、お前ら」


黒髪の男が呟く。彼の周囲には奇怪なイキモノが(ひし)めいていた。
歪んだ球体に砲台が取り付けられているモノ、骨組みだけの翼を背にした鎧を(まと)った人のようなモノ、あるいは虫やら何やらを(かたど)ったモノ。そんな非現実的なモノに囲まれながらも、男の口調は軽い。


「壊し尽くしてやるよ、アクマ」


2振りの、サーベルに似た刀を手に、男は地を蹴った。アクマの群れへと肉薄する。両腕を大きく開き、それを体の前で交差させた。アクマは紙屑を切るかの如く両断されていく。その様はまるで、鋏だ。

左手に持った刀を逆手に持ち替える。正統とはいえない構え。だが彼は器用にも、それで攻撃を防ぎ、受け流し、仕掛けていく。




程なくして、戦闘音が止んだ。あれほどいたアクマはひとつ残らず破壊し尽くされている。ガラクタの中で1人佇む男にはかすり傷ひとつない。

男は空を振り仰いだ。鈍い色に染まったそれは、彼の求めているそれではない。


「嫌な予感がするなあ……」


誰に言うでもなく呟く。応えは返らない。
その呟きは、ただ、曇りきった空に吸い込まれた。



にきす

(空にキス、記す、帰す)



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