酷薄
夜の帳が降りた、この空間。
漆黒が全てを覆い隠す。
そう、何もかもを。
肉を裂き骨を断ち。
絶唱。
水音。
今し方まで溢れていた音が、急に途絶える。
赤に染まったこの地で唯一息がある二人もまた、アカ。
二人は屍の頭を、腹を、背を蹴り上げ、各々が斬り捨てた者達を並べてゆく。
何故このようなことをしているのか。
それは数時間ほど遡る。




―†―




「あっしゅ〜、ヒマ〜」


指を絡める。


「そうか。ならもう1ラウンドイくか?」


口づけを落とす。


「お前、そればっか……。やーすーまーせーろー!」


押し返す。


「いつでも休めるだろうが」


押し倒す。
城の一室、甘ったるい空気を孕んだ寝室。今にも喰われそうになっているルークが、あ、と声を上げる。


「アッシュ、ゲームしようぜ! 時間内に被験者をどれだけ殺せるか!」

「……賞品は?」

「……お、俺?」

「いいだろう、のってやる」


途中で遮られ、不機嫌だった顔が一変、獲物を捕えた肉食獣の様な笑みを浮かべる。それに冷や汗を浮かべつつ、ルークは簡単なルールを説明する。

「譜術はナシな! 制限時間は二時間。今0時だから、2時までな」

「ハッ、起きてられんのか?」

「ガキ扱いすんなっての」

「中身はガキだろうが」

「うるせぇ!」


戯れつつ、周りに散らばった服を身につけていく。

「用意は出来たか?」

「バッチリ! んじゃ行くぞ。Ready――」

「「Go!」」


暗闇に煌く愛剣を手に、二つの焔は闇に融けた。


――そして、今に至る。


剣が地面を抉る音が響き渡る。


「……何度数えようと変わらねェよ」

「うぅ……。ホントにお前の方が多いのか? 真ン中で真っ二つにしてあるとかじゃないよな?」

「誰がそんな七面倒くせェことすんだよ。いい加減諦めろ」

「うー……。折角普通に寝れると思ったのに……」

「ごちゃごちゃうるせェ。一端言った事を撤回する、なんて言わねェよな? テメェが言いだしたことだしなぁ……?」

「〜〜〜〜ッ!! あーもう、好きにしろよ!」


諦めたように吐き捨てる姿に笑みを深め、噛みつく様なキスをする。


「ふ、ぅッぁ、あっしゅ、まさか此処で……ッ!?」


その問いには答えず、ぴちゃり、とわざと音を立てて耳を舐める。


「好きにしろ、と言ったのはお前だが?」

「だ、って、此処……ッ」


首に、肩に所有印を施してゆく。
ルークが逡巡するのも理解できる。此処はとても血生臭い。先程まで戦場と化していたのだから当然であるのだが。死体とはいえ、その頭に嵌め込まれている無数の濁った眼球が、どうしても此方に向けられているようで、居心地が悪い。


「周りなんざ気にするな。それともなんだ、見せつけてやるか?」

「悪、趣味……ッ!」

「お前に言われたくはねェよ」

「ッぅい……ふ、ぅあぁ……ッ!」


触れる度、敏感に反応するルークを、愛おしげに眺める。
不意に地面が大きく揺れた。
赤黒い空に目を向ければ、目に留まったのは宙に浮く大地。
ホド、いや、栄光の大地――エルドラントだ。


「とうとう、いや、漸くか……? まず兎に角、此処まで来た。もうすぐ終わる。なぁ、ルーク」

「ん……」


情欲に濡れた目がアッシュを捕らえる。
その様子を見、口元が弧を描く。


「さて、そろそろ終わらせる為に動くか。シナリオ通りに行き過ぎて、少々退屈だ」


気だるげに預けられた頭を撫で、優しく唇を食む。空に浮かんだ大地は、唯、二人を静観していた。


(終幕の始まり)
(否、最初から終幕)
(終わらせる為の劇だから)


クライマックスはこれから!




2009/11/19


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