安閑
ルークとアッシュは、コーラル城を拠点としていた。音素集合体達の加護を受けたこの城は、二人以外に誰かが入る事は出来ない。それは、この地に蔓延っていた魔物たちも同じこと。二人以外の生物が入った場合、それに待ちうけるのは、消滅だけだ。
そんな城の一室で。
クスクスと、盆の中に入った水を見ながらルークは嗤う。


「なあなあアッシュ、コイツら馬鹿だぜ! 自分から滅びの道を辿ってる!」


水は外を映しだす水鏡。水を司る音素集合体のウンディーネがくれたモノだ。これさえあれば、世界を一望できる。


「ルーク」

「んー? 何、アッシュ?」


そう答えるも、ルークは此方を向かない。その瞳が映しているのは、愚挙を奏でる人間達のみ。
気に喰わない。
その眼が映していいのは、俺だけだ。
朱は、俺だけのものだ!
一向に此方を見もしないルークの顔を、無理矢理振り返らせる。


「いったッ!! 何す――」


非難の声を上げる唇を塞ぐ。驚いた拍子に開いた隙間から舌をねじ込み、口内を荒らす。


「んッ……ふ、ぅ……ッ!」


此方の動きに応じ、嬉しそうに抱きついてくる。くちゅ、と水音が耳を犯す。次第に息苦しくなってきたのか、胸を叩いてくる。そんなのお構いなしに、存分に翻弄してやるが。
此方の気が済むまで存分に楽しみ、漸く離したかと思えば、近くに在ったソファに突き飛ばし、覆い被さる。


「つぅ……ッ! 何怒ってんだよアッシュ――」

「その眼が、」


硝子細工の様な翡翠の目が収まったその眼窩に、指をかける。


「……その眼が映していいのは俺だけだ。他のモノを映すな」


他のモノを見るこの眼を、抉り出してしまおうか。そうして、この綺麗な眼を部屋に飾ってしまおうか。そうも考えた。
しかし、この眼はルークに在るから美しいのだ。切り離してしまっては、それは唯のモノになり果てる。それでは、意味がない。
驚いたように見開かれた眼、だが、段々と笑みに変わっていく。


「……何がおかしい」

「いやー、俺って愛されてるんだなーって!」

「今更それを言うか」

「だって、それって嫉妬だろ? 俺が他のモノ見ることに対しての。安心しろよー、俺アッシュ以外なんてどうでもいいから!」

「そう言う割には、人間共を楽しそうに見てたじゃねぇか」


――いっそ、皆殺しにしちまおうかと思っただろう……?

耳元で囁いてやれば、擽ったそうに身を捩じらせる。


「まだダメ〜。此処まで頑張ったのがダイナシじゃんか」

「ふん、どうせは滅ぶんだ、そんな世界なんざどうでもいい」


毛先にかけて見事な金のグラデーションがかかった髪に口づける。外見的な劣化らしいのだが、これは劣化とは言わない。確かにオリジナルである自分とは違うが、こんなにも美しいものを、何故劣化といえる?


「でも、復讐するんだったら、少しでも甚振ってやんないと♪」

「俺はお前さえいればいいんだがな」

「俺もアッシュさえいればいいけど、折角ローレライがくれたチャンスだし? どーせなら楽しもうぜ」

「……そうか。なら楽しませて貰おう。今から、な」

「へ?」


一瞬呆け、次いで意味と現状を理解し、髪と同じ位真っ赤な顔で抵抗し始める。その抵抗の仕方の、なんて可愛らしいことか。


「今まで散々俺を無視しやがって……。覚悟は出来てるんだよなぁ……?」

「ぅ……。お、お手柔らかに、お願いします……」

「安心しろ、存分に可愛がってやるよ」

「ぅわ、いきな――ひぁ……ッ!」




―†―

あの後アッシュの思うがままに遊ばれ虐められ可愛がられ、あー、うん、正直に言う、理性なんて残って無かったよ……!(ホント、狂っちまうかと思った!)
最初の方で理性飛ばされて、殆ど自分の意志なんて無くって、でも覚えてるところは覚えてたりして。
今思い返すと結構恥ずかしいコトやってんなーなんて思うけど、今更始まったことじゃないし。
にしても、寝顔カワイイな〜。
いっつも凛々しい顔ばっかだから、ギャップで余計そう思う(コレを知ってるのは俺だけってのがいい!)。
じーっと見つめていると、視線が気になったのか目が合う。


「……なんだ」

「えへへ〜、アッシュ大好き!」

「当たり前だ」


アッシュの胸に擦り寄ると、抱きしめられた。
同じリズムで刻まれる音。此処も、俺と同じ(俺が、同じなんだけど)。
なんか擽ったいけど、コレが『幸せ』ってコトなんだろうな〜。幸福感を感じつつ、二人はまた、夢の世界へと旅立った。


物静かな城。
地震、崩落、瘴気。
天変地異が起きている中、この場所だけは皴一つなく、まるで聖地の様。しかし、足を踏み入れる者はいない。一歩入ったが最後、跡形もなく消滅してしまうから。
(世界は崩壊の危機)
(けれどもアカ達はお構いなし)
(唯情欲に身を任す)



偶には休息もしないと、ね!




――――
インテルメッツォ=間奏曲
2009/10/07


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