絶望
戻って来てから七年。
“何も知らないルーク様”を演じて、毎日同じことを繰り返して過ごしていた。全ては、人間への復讐を果たすため。でも、アッシュに逢えないし、退屈だし、人間を減らしてやりたいのを必死に堪えていると、漸くあの日が来た。
さあ、今日から終幕の始まりだ!
髭を討ちに来た不法侵入者との間に割って入り、前回と同じ様にタタル渓谷へと飛ばされた(あの時の髭の表情といったら!)。
一人でエンゲーブに行って、マルクト軍に事情を説明、保護してもらい、タルタロスに乗った……のならば、どんなによかったか!
人生はそううまくいかないらしい。
女を起こさないように渓谷を下りたのに、馬車の近くで勝手に喚き同行すると決められ、揚句の果てには自分のせいで泥棒に間違えられたのに俺まで巻き込まれた(助けるのは当然、なんて顔をしやがった!)。
関係無いって言っても女がいらないこと話して結局村人達に村長的な奴の所に連れていかれ、イオンとあの眼鏡と顔合わせて、その後職務怠慢な導師守護役にも会って。
やっと宿に泊まれるかと思った矢先、女が明日チーグルの森に行くと言い出しやがった(行きたいなら一人で行けって言ったのに、俺もついて来るように言いやがった)(テメェが勝手に行きたいだけなのに、なんで俺まで行かなきゃいけないんだ!)。
そんなこんなでチーグルの要望を聞き、ライガに交渉しようとしたってのに、やっぱりあの女がしゃしゃり出てダイナシにして。
眼鏡が譜術でなんとかしてくれたが、不法侵入者だと連行され、拘束した状態で半ば脅す様に和平の為に国王へ取り次げと言ってきた。
お前ら立場分かってんのか、一応王位継承者相手なんだぞ? とか、脅し紛いのことして取り次げとか、逆に戦争起こしたいのか? とか、常識人はいねーのかよ、とか思って反抗したら、これだから温室育ちは、何も知らないお坊ちゃまは、的なことを言われた(お前らに言われたくない、非常識人共め!)。
こいつらバチカルについたら不敬罪とかその他諸々で死刑にしてやろうか、いや駒として動いてもらわないと困るから生かしておこう、なんて考えて、面倒臭くなって承諾したらしたで厭味言われるし。
早くアッシュに逢いたい、て思ってたらタルタロスが襲われ、奪還することになった。
散々邪魔者扱いされた揚句、眠っているとはいえ、敵陣の真っ只中に護衛もなしに放置され。

あー、もう、苛つく!

怒りのままにアホ面で寝ている兵士を蹴り上げれば、当然の様にそいつは目覚める。
丁度いい、こいつ殺して気持ちを鎮めよう、と、剣を抜いた瞬間、空から紅が舞い降り、兵を切り捨てる。血飛沫を上げ崩れる兵士などには目もくれず、ルークは突如現れた影に抱き着く。


「アッシュッ!」


やっと、七年ぶりにやっと逢えた!!
離れたくないと言わんばかりにぎゅうぎゅうと抱きしめれば、きつく抱きしめ返される。


「アッシュ、アッシュ! やっと逢えた!」

「漸く逢えた、ルーク」


どちらからともなく口づけを交わす。触れるだけだったそれは、段々とエスカレートし、歯列をなぞり、舌を絡め、それでもまだ足りないと言わんばかりに深く長く。七年という長い時を埋める様に、二人は互いの唇を貪りあう。
流石に苦しくなってきて背中を叩けば、渋々といった様子で離される。名残惜しむかのように銀の糸が曳く。


「はぁ……アッシュ、俺ずっとお前と一緒に居たい……」

「もう少しの辛抱だ、ルーク……。まだ、前回通りに動くんだろう?」


甘い低音で囁かれ、心地好さに身を振るわせる。


「うん、そうだったな! 俺が言い出したんだし、音を上げてちゃダメだな! ……でもアッシュ、やっぱお前が居ないと寂しいよ……」

「俺だって寂しい。折角また逢えたというのに、また離れなければならないのだから。だから早く――」

「「喜劇を始めよう?」」


(劇の幕開け)
(役者は愚かな人間共)
(ほら、俺達を愉しませろ)

脚本は勿論、俺達!


――――
イントロダクション=曲の始まり、イントロ。
2009/10/02


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