12
「見つけた……」
見つけた。最後の1冊。いや、まだそうと決まったわけではない。恐らくこれであっているとは思うが、確かめなければ。
そう思い、確かめようと緑のそれを開こうとすると。
「ルーク」
不意に名を呼ばれた。億劫ながらも振り返ると、其処に居たのは。
「父、上……」
何故、此処に。誰も来ない様なこんなところに用があるわけない。訝しんでいると、公爵が口を開く。
「お前は最近、地下牢に通っているらしいな」
どうして、それを。誰も知らない筈なのに。まさか、ガイか。思い当たり、歯噛みする。沈黙を肯定ととったのか、公爵は嘆息し続ける。
「どうやって見つけたかは知らぬが……。あれは人ならざるもの、悪魔だ。先人がかけた封印を、お前を使って解こうとしているのだろう。その本が媒体であるからな。悪魔の甘言なぞに耳を傾けるな」
そう言ってくる彼の目は、父親のそれではなく。感情の一切を削ぎ落としたように冷たくて。まるで路傍の石ころでも見るかの様な。嫌でも思い知らされる。自分は所詮、道具でしかないのだと。
「……あいつは、悪魔なんかじゃ……」
「お前はあの悪魔に誑かされているのだ。さあ、その本を此方によこしなさい」
手を煩わせるな。道具如きの意見など、聞ける筈がない。言外にそんな思考が読み取れるようだ。此処まで露骨であると、逆に反発したくなる。
「……渡したら、どうする気だよ」
「駆除する。あの力を武器とするのが先人の遺志であるが……やはりあれは、生かしておいてはならん」
「……ッ!」
やはりそういうことか。ガリ、と奥歯を音が立つ程噛みしめる。誰も自分達を生き物だと思っていない。国にとっての武器となる、唯の道具としか。俺達は、確かに生きているのに!
「俺もあいつも、道具なんかじゃないッ!」
あいつが悪魔であろうが関係ない。あいつだけが、俺を『俺』として見てくれる。そんな彼を、殺させてたまるか。
「そうか。ならば致し方あるまい」
パチンと公爵が指を鳴らす。現れたのは、揃いの鎧を着た兵達。俺を、捕える気だ。掴みかかってくる手を振り払い、走り出す。
2010/01/31
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