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見慣れた天井。惚けた様にそれを眺めていたが、やがて急速に思考が戻ってくる。ガバリと身を起こし、辺りを見渡す。やはり此処は自分の部屋。確か自分は、少年の元で眠っていた筈。それが、何故此処へ。
「起きたか、ルーク」
「ガイ……?」
いつになく険しい表情。自然と身体が強張る。
「なぁルーク。あの地下牢に行くのを止めようとは思わないか?」
「何で知って――!」
あの牢については誰にも言っていない。知る術はない筈だ。なのに何故。
ふと、一つの考えが頭をよぎる。
まさか。
「俺の後を、つけたのか……?」
「…………」
微妙な表情の変化。沈黙を肯定と取る。
「ッ、最悪! 結局お前も、俺の事信用してないんじゃないか! 何でお前まで俺を監視するんだよ!」
「ルーク、それは違――」
「違わねェよ! 何で、あいつだけじゃないか! あいつはそんな風に扱わないのに!」
最悪だ。どうして此処までされなければならない。それほどまでにこの力が必要か。これさえあればいいのか。俺は道具にすぎないのか。こんな力、望んで持ったわけではないのに。
「……ルーク。やっぱりあいつに、何かされたのか?」
耳を疑った。今の話の流れから、どうしたら其処に辿りつく。
「ワケわかんねェ! あいつが俺に危害を与える筈ない!」
「……お前、様子がおかしいぞ。いつものルークらしくない。あの悪魔に何をされたか知らないが、少し落ち着け」
その言葉に俯く。もう駄目だ。こいつに何を言っても伝わらない。ガイの中であの少年が俺に何かしたということは、既に決定事項の事の様だ。俺が何と言おうが、それは覆らない。
結局、こいつも俺の話を聞いていないのではないか。
「……ぇ、が」
「ルーク?」
「お前がそれを言うのか!? 何が『様子がおかしい』だ、大体いつもの俺って何だ!? 知った様な口を聞くな! 何も、何も知らない癖にッ!!」
もう耐えられない。水色の本を手に取り、呆然自失といった様子のガイの傍をすり抜ける。廊下を走りだすと、後ろからガイの声が追いかけてきたが、知ったことか。無視を決め込み書庫へと逃げ込む。
膨大な量の本棚が、本が迷路を作り出している此処に、入ってくる者はいない。利用者のいない机へと突っ伏す。
逃げ出したい。この箱庭から逃げ出したい。皆道具の様にしか扱わないが、俺にだって意志はある。なのに、叶わない。
「くそッ!」
現状を打開する術を持たない自身にもどかしさと苛立ちを覚え、机を拳で強く叩く。ぐらり、と高く積まれた本が揺れた。
「あ」
しまった、と思う間もなく、本の雨が降り注ぐ。
「いった……」
何なんだ。今日は踏んだり蹴ったりだ。更に苛立ったが、物にあたっても仕方がないので、散らかった本を集めていく。
嘆息しつつ、手にした緑色の本。
それには、また、譜陣が描かれていた。
2010/01/31
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