10
眠ったルークに、以前彼が持ってきた毛布をかけてやる。さらりと絹糸の様な朱の髪を掬う。暗い闇の中に差し込んだ、一条の光。


「俺の、光」


俺を見つけてくれた。
恭しく髪に口づけを落とす。目覚めた様子は、ない。くすりと笑みを浮かべる。


「誰にも渡さない。俺の、俺だけの〈聖なる焔の光(ルーク)〉……」


その笑みは今までとは違い、獰猛。まるで、悪魔を連想させるかのような。
ふと、ルークに向けられていた視線を、廊下へと向ける。広がるのは、唯の闇。


「……盗み聞きとは、趣味がよろしくないな」


影が動く。現れたのは金髪の青年。殺意を孕んだ蒼の目が、此方を見据える。
格好からして、ルークの従僕か何かだろう。


「……そいつに、何をした?」


ぱちりと一つ瞬きをする。急に何を言い出すかと思えば。


「何もしていないぞ?」

「とぼけるな! 悪魔であるお前が、こいつに暗示でもかけて封印を解こうとしているのだろう!?」

「喚くな。ルークが起きる」


ハッとして口を閉ざす。その様子に確信し、口元を歪める。


「……それが本当だとして、お前はどうする気だ?」

「今後一切、お前に近づけさせない。ルークに害を与える者は、俺が全て排除する!」

「だが、ルークは納得しないぞ? それともなんだ、お前は無理にでもルークを閉じ込める気か? そんなことしたら嫌われるのがオチだぞ」


ぐ、と青年が息を詰める。もう一押しか。


「愛しのご主人サマに嫌われたらどうするんだ? 自害でもするのか?」

「黙れッ!!」


怒鳴り声。咄嗟にルークを見るが、未だに夢の中。よっぽど疲れていたらしい。
憤っている青年に視線を戻し、笑みを深める。


「ルークはお前らの言葉なんか、最初から信用してねェよ。俺はお前らの様に、こいつを傷つけてなんかいない。そんな俺とお前ら、ルークがどっちを信頼するか、なんて、明白だろう?」

「ちょっと待て。俺達がルークを傷つけている、だと……?」


呆れた。こいつは気付いていないのか。
美しい朱の髪を梳き、頬を撫でる。
この傲慢な人間達に囲まれて、彼は一体どれだけ傷ついてきたことだろう。


「おい、俺達がいつルークを――!」

「うるせェな。それくらい自分の頭まで考えやがれ。その頭は飾りか?」


適当にあしらえば、犬の様に喚いてくる。騒がしい。ルークを起こす気か。
それにしても。


「……お前は、俺の名を知っているな。でなければ、ルークを除いて俺を視認できる筈がない」


名を封じられるとは、そういうことだ。名を知らない者には、其処に居てもいないことになる。


「ルークを、除き?」

「あぁ。こいつと俺は、どうやら同じ存在らしい」

「同じだと? 悪魔のお前と――」

「言い方が悪かったな。確かにこいつは人間だ。違うが、同じ。俺の名を知らないこいつが俺の事を視認できるのは、そうだからだ」


初めて会った時に感じた既視感。気が狂いそうなほどの長い年月の中、俺を救ってくれた光。
愛しい、半身。
誰にも傷つけさせたりなどしない。


「……何故そんなことが分かる。記憶がないというのは唯の狂言か?」

「いや、確かに無い。だが、こいつも言っていただろう? 『身体とかが覚えている』と。それと似たようなものだ」


にこりと笑みを零す目の前の少年に、ガイは胸騒ぎを覚える。
外見に似合わぬ威圧感。こいつは、危険だ。本能が警鐘を打ち鳴らす。
振り払うように彼から視線を外し、昏々と眠るルークを抱きあげる。このまま寒い此処で寝せておけば風邪をひいてしまう。
少年にそれが伝わったのか何も言わなかったが、若干顔が歪んだ。


「……どんなに離そうとしても、ルークは必ず俺の元に戻ってくる。必ず、だ」


覚えておけ、と。まるで呪詛の様な言葉に、ガイは言い返せず、振り返りも出来ず、無言で牢を出ていった。


2010/01/31


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