09
「他に忘れたこと?」

「うん、そう。名前と記憶以外に、他に持ってたけど無くしたもの、とか」


その問いに、暫し少年が考え込む。ないのだとしたら、残る1冊を探せばいい。まだあるのだとしたら……まあ、その時はその時だ。


「……多分、ない筈だ。とはいっても、記憶がないから当てにはならないな……」

「そんなことねェって! 記憶はなくても、ほら、身体とかが覚えてたりするし!」


急に落ち込んだ彼に、慌てて弁解する。
とりあえず残るは1冊。それはほぼ確定でいいだろう。
さて、後は何処を探すか。
思案していると、少年が此方を見て目を細めているのに気がついた。


「……何だよ」

「いや、面白い奴だと。今、一人で百面相していたぞ。そんなに何を悩んでいるんだ?」

「それは……」


言いよどむ俺に一つ溜め息を零す。かと思うと柵越しに手を伸ばしてきた。それは俺の頬を捕らえ、挿み込む。


「嫌なら言わなくていい。だが、前にも言ったように無理はするな。お前、俺と会ってから毎晩此処に来ているんだ、ろくに寝ていないだろう?」


指摘され、急に睡魔が襲ってくる。


「ごめ……ちょっと、寝させて……」

「わかった。……これはまじないだ。――いい夢を」


顔を引き寄せられ、額に口づけられる。だが、殆ど眠りかけている俺の脳はそれを理解せず、急速に意識を失った。


2010/01/31


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