08
木を隠すなら森の中。人を隠すなら人の中。なら、本を隠すなら? やはり、本の中だろう。今まで集めた本を、黒い本の傍に入れようとするが。
「ダメだ……入らねェ」
殆ど隙間なくここに入る筈がない。無理矢理詰め込んで、曲ったりなんかしたら嫌だし。
「……仕方ねェな……」
この棚だけ整理するか。多少ズレたところで此処に来るのは俺くらいなものだ、誰も気にしない。譜術の原理がなんだとか、音素がどうだとか、わざわざ難解にした様な本を退けていく。ふと、白い本が目に入った。
「これ……ッ!」
取り出してみると、やはり、陣の描かれた本。これで5冊目。これで、名前が揃った筈。いてもたってもいられず、中を捲っていく。
「『此ハ悪魔ノ記憶。封印ガ解カレシ時、彼ノ元ヘト還ラン』……?」
いつもと文が違う。関係ないのだろうか? いや、共通点はある。無関係、ではないだろう。
「……記憶、か」
そういえば、彼は記憶がないと言っていた。恐らく彼を封印している媒体が、これらの本。この本には彼の記憶が詰まっているのだろうし、他には名が封されている。
人でも魔物でも無機物でも、誰もが持っているそれは、重要なものだ。名がないものは、つまりいないも同然。
それほどまでに重要なもの。だからこそ、一字ずつに分けて封印しているのだろう。媒体一つだけで封印出来るような代物ではない。
「……あれ?」
はたと気がつく。名前がなければ存在が否定されているようなもの。存在が否定されているなら、誰からも視認されない筈。いや、彼の名前はないわけでなく封印されているのだから、それは当て嵌まらないのか? それとも、あの文字の様に俺だけに見えているのか?
「……まぁ、いいや」
思考を放棄。そんなことはどうでもいいのだ。彼は確かに在る。重要なのはそれだけ。
それにしても、封印に関しては、あながち間違いではないだろう。
「あと1冊、か」
名前に関する本は4冊と記されていた。だとすれば、今のところ3冊は集まっている為、残るは1冊。他にも封印されていなければの話だが。
今夜会う際にでも訊いてみることにするか。
2010/01/25
- 9 -
*prev | next#
←return
←top