07
2冊目の本を発見してから幾日。今のところ、4冊は見つかっている。


「お前、最近よく書庫に篭ってるよなあ。何か面白いものでも見つけたのか?」


そう聞いてきた金髪の青年の名はガイ・セシル。俺の世話役をしている使用人だ。


「窓から入ってくるなよな……」


いつもの事だから、もう気にしていないが。悪いと苦笑する彼に、嘆息する。


「面白いって言うか……ちょっと本を探してるんだ」

「あの中からか!? 大変だな……」


蒼の目が、ある一点で止まった。


「あぁ、もしかして、その本か?」


ぎくりと身を強張らせる。今の今まで、ずっとあの本を眺めていたのだ。机の上には当然それが開かれている。


「それにしても、変な本だな。何も書かれてない。そんなの探してどうする気だ?」

「……何、も?」


確かに殆どは印字されていない。だが、今開かれているページは、唯一文字が載っている場所。


「……見え、ないのか?」

「何がだ?」

「この字だよ! 見えてないのか!?」

「字も何も……唯の白紙じゃないか」


白紙、だと? この目には確かに、字が見えているのに。困惑を感じ取ったのか、ガイは苦笑を浮かべる。


「お前は昔から人には見えないようなものが見えたりしたからな」


そう。最近は見なくなったが、確かに俺には、人には見えないようなものが見えていた。人の形をした焔のようなものだとか、ある時には声まで聞こえたこともある。だが、字にまで現れたことは、今までにない。


「またそういうのなんじゃないか? 特にお前の害になる様な事でもないんだろう?」

「まぁ、そうだけど……」

「なら、俺は特に言わない。こんなところに閉じ込められているお前のいい暇潰しだろうしな」


其処にあるのは憐憫。こいつは他とは違い、俺を腫れものの様には扱わない。親友の様に接してくれる。
だが、それだけだ。
俺を憐れんでいる。その視線は、嫌い、なのに。


「ルーク? どうした?」

「……ッ、別に」


お前の所為だ、とは言えない。ガイは首を傾げたが、特に思い当たった様子も無く、そうか、と呟いた。


「そうだな、一人だと大変そうだし、俺も手伝うか?」


まさかそう来るとは思わなかった。どうする? 手伝ってもらうか? 確かに、手分けして探した方が効率はいい。しかし、そうなると色々と説明しなければならなくなる。
少年の事も。
過保護なこいつの事だ、得体のしれない彼と離そうとするだろう。


「あー。いや、いい。もう少し自分で探してみる」

「そうか。よっぽど大切なものなんだな。夜中に抜け出してまで探してるとは」


背筋が冷えた。誰にもバレない様にしていたつもりだが、こいつに知れていたなんて。彼に限ってそんなことはないと思うが、誰かに言われる前に、口止めしなければ。


「ガ――」

「ガイーッ! ちょっと手伝ってほしいんだけどー!」


口を開いた瞬間、メイドの声が響く。


「分かった! 今行くから待ってくれ! 何か言いかけたか、ルーク?」

「いや、やっぱいい。それより、早く行ってやれよ」

「そうか。それじゃあな」


そう言うと、綺麗に窓から出ていく。まあ、彼に限って、俺の不利となる様な事は、誰にも言わないだろう。


「さて、と」


この本、何処に隠すべきだろう?


2010/01/25


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