06
ルークが出ていくのを見送った後、少年は本を取り出す。焔の様な、朱色の装丁。まるでルークの髪色の様だと思う。
「……『此ハ悪魔ノ力。契約ガ交ワサレシ時、彼ノ元ヘ還ラン』、か……」
たった1ページだけに書かれた文を諳んじる。開かずとも、もう覚えてしまった。
「……『悪魔』……」
この牢にあるものなのだ、何か自分に関係するものなのであろう。しかし、まったくもって分からない。自分の名前も、『悪魔』等と称される由縁も。
記憶が、ない。
永く此処に入れられ、眠っていたことしか。
「……俺は、誰だ?」
それ以前に、自分は人なのか。飲まず食わずで、未だ生きているなんて。
「俺は、」
人間か、化物か。どういったところに住んでいたか。どんな性格だったか。名は。歳は。
「俺、は……」
一体、何者だ。
誰何する声は、唯虚しく床に転がり落ちた。
2010/01/25
- 7 -
*prev | next#
←return
←top