05

「――ク、ルーク?」


少年の声に、ルークは我に返る。


「ご、ごめん。何だっけ?」

「いや、特に用は無いんだが……。どうした? 何かあったのか?」

「…………」


何かあったことにはあったのだが。
あの本に書かれていた文字は、本当に彼の名前に関係しているものだったのだろうか。描かれていた譜陣といい、漠然とだが、彼に何か関係があるものだと思う。
しかし、それを伝えたとして、もし違っていたのなら、糠喜びさせることになってしまう。確証のないことは言いたくない。ましてや、悲しませることなど以ての外だ。


「……何も、ないよ。名前の手がかりも、まだ」

「……そうか」


……これで、いいのだ。そう、自分に言い聞かせるように。いいのだ、これで。話すのは、全て揃え、確証が取れてからにしよう。
あの本から察するに、名前は4文字でなっている様だ。今日1つ見つけたので、残りは3つ。恐らく、本1冊に1字なのだろう。ならば、もう3冊見つけ出さなければならない。あの、本の山の中から。

それにしても、とルークは思う。あの本の中、目についた単語。『悪魔』とは、どういうことなのだろうか。あれは空想上の生物である筈だ。実在する訳がない。ましてや、こんな子供が。
それとも、その名がつく程の力があり、その所為で此処に囚われているのだろうか。突拍子もない話ではあるが、そうだとすると辻褄が合う。何年も飲まず食わずで生きていられたのは、その譜力の高さ故なのであろう。
しかし、何故、こんなことを。


「……ルーク?」


少年の怪訝そうな声。一体自分はどういった表情をしているのだろう。そう思いながら、鉄格子に手をかける。


「……絶対、手掛かりを見つけてやるからな。此処から出る方法も、お前の名前も」


一瞬、軽く目が見開かれた。次いで逡巡したような素振りをし、少年の手が、格子を握りしめた手に触れる。


「……動けない俺の代わりに調べてくれるのは嬉しい。だが、無理はするな。倒れられたら……困る」

「そうだな、調べられなくなるし」

「そうじゃない! そうじゃなくて……」


俯き、触れていた手に力が籠る。


「……話し相手がいなくなる、し……ここで倒れたら、助け、呼べないだろ……」


心配、してくれていたのか。
ふと表情を緩めると、柵の隙間から手を伸ばし、俯く紅の頭を撫でる。
「大丈夫だって、俺、結構タフだから」


そう言っても尚無言のままの彼の頭を、ぐしゃぐしゃと執拗なまでに撫でまわす。流石にキレた少年がその手を振り払い、背を向け檻の奥に逃げてゆく。歳相応のその行動が、妙にツボに入ってしまい、思わず吹き出した。


2010/01/25


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