03
肢体に絡みついた鎖。固く閉ざされた目。自分に、酷似している少年。まるで、鏡。とはいえ、少しばかり年下の様だ。
少年の自由を奪っている鎖には、彼が暴れたのか、血が付着していた。古いものなのか、乾き、変色していたが。所々に錆が浮いている。
一体、いつのもの。
他に人が来た様子はない。食糧も、水分すらない。放置され、どれくらいの年月が。


「……死んでる、のか?」


呟くと、声に反応したように少年の目が開かれる。


「……ダれ、だ……?」


長らく声を出していなかったのか、掠れた声。やはりどこか似ている声色に、こちらを射てくる翠眼。途中から気付いていたが、音素の塊の正体は、どうやら彼だったらしい。
それにしても、何故此処に閉じ込められているのか。彼も、自分と同じく、キムラスカの武器、なのだろうか。


「誰ダ……?」


再度、同じ問い。


「……俺はルーク。ルーク・フォン・ファブレ。お前は?」

「な、マえ……」


視線が戸惑ったように揺れる。


「……覚エて、イない。ナがくこコにいタ。何時かラか誰モ来なくナった。誰も、俺の名前ヲ呼ばなクなっタ……」

「……どれ位此処に……?」

「さアな。日ノ当たらなイ此処でハ、時を知る術スらない」

「そっか……」


何故、此処に囚われているのか。聞きたかったが、何故か聞いてはいけない気がした。
その代わりに。


「此処から出してやらなきゃな。誰も来ないんだろ? ならバレないって」


どうも、彼が何か罪を犯したとは思えない。牢の鍵穴を探しながら言う。
しかし、少年は首を振った。


「コこからは出ラれなイ。こノ蒼イ焔が俺を封じテいる」

「なら、それをどうにかすれば!」

「無理だ」

「何で最初からあきらめてんだよ! やってみなきゃわかんねぇだろ!」


言うなり、掌を鉄格子へ向ける。物質を破壊できる、この力であれば。光が格子を覆う。だが、破壊する前に、霧散した。


「今ノ、は……超振動か……?」

「ああ、そうだよ。これなら、消滅させられるんじゃなかったのか!?」


なんで。どうして。疑問だけが頭を埋め尽くす。この力は、防ぐ術などなかった筈なのに!


「その超振動デは、この檻は壊セない」


思考を読んだ様に少年が応える。


「こレは、術ででキたモノだ。物質ではないカら、超振動でハ消エない」

「そんな……」


絶望しかけた時、少年が笑む。


「久々に人に会エた。話モ出来た。ソれだけデ十分だ」

「――ッ!」


人に会えない寂しさを、孤独感を、ルークは知っている。少なくとも、ルークは人には会えていた。とはいえ、殆どがルーク自身に接している訳ではなく、キムラスカの武器として扱われていた。その疎外感と空虚さが、もう慣れ始めた今でも蝕む。そんな状態を、否、それよりも悪い状態を、彼が何年も受けていたなら。
彼の容貌といい、境遇といい、親近感よりも既視感が湧く。


「イいのか、そロそろ戻らなクてモ」


言われて気付いた。此処に来てから、大分経つ筈だ。
朝食の席に出なければ、部屋からすら出してもらえなくなるだろう。


「出してやれなくてごめんな……。代わりに、毎日来るからな! 絶対に!」


少年が驚いたように目を見開く。その後、笑みを浮かべたのを見、もう一度謝って、元来た道を戻っていった。


2009/11/28


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