01
ルークは暇を持て余していた。
キムラスカ・ランバルディア王国、マルクト帝国が『聖戦』と称した争いを始めてから、早幾年。生まれ持った超振動などという特殊な力を、キムラスカの武器とすべく、ルークは齢10の頃より城に幽閉されていた。
退屈な日々。
始めの内こそ城内の探索に明け暮れていたが、今ではもう、無駄に広いこの城で知らぬ場所などない程知りつくしている。
不変である日常。
まだ遊び盛りであるにも関わらず、外に出してもらえぬ生活は、彼の気を滅入らせていた。
それが7年続いた、ある日。
彼は書庫へと来ていた。軟禁され、外に出られないこの生活の中、本の世界へと翼を広げる。一時凌ぎではあるが、変わり映えのない日常では、そこそこの刺激になっていた。
今日もまた想像の旅に出ようと、適当な本を漁っていた時。


「ん?」


とある本の前で手が止まる。
黒い革の装丁。何故か、背表紙に題名が書かれていない。他は全て、書いているのに。
好奇心からそれを手に取ってみる。中を捲ってみるが、何も書かれていない。
表紙に描かれた譜陣の様なモノに指を這わせてみる。隠しページがないか、1ページ1ページ丁寧に調べてみる。思いつく限りの事をしてみるが、しかし、何も反応がない。


「……何だよ」


この暇を解消できる様な何かを期待していたというのに。失望し、元の場所に戻そうとした時、視界の端に何かが映り込む。


「……は?」


壁が、無くなっている。本棚と本棚の間、その一角だけが。代わりに地下へと続く階段。
暫く固まっていたが、ふと思い出したように本を戻す。すると、再び壁が現れた。怪訝に思い、壁に触れてみる。


「ぅ、わ!」


そこに壁など無いかの様に、腕が入り込む。どうやら、この壁は幻影の類の様だ。意を決し、中に首を突っ込んでみる。
唯、漆黒だけがあった。
明りは全くなく、一寸先はすぐ闇。辛うじて階段の一番上が見えるか見えないか。その奥に、何か、生けるモノの気配がする。魔物とも人とも違う、もっと純粋な音素の塊の様な。
自分にどこか近しい様な――。


「ルーク様! どちらに居られますか!?」


メイドの、自分を探す声に、我に返る。
気になる。
だがしかし、明りがなければ進めないだろう。
仕方がない。
後ろ髪を引かれつつ、ルークはその場を後にした。




「……ヒと……人ノ、けハイ……」

闇の奥で長らく息を潜めていた存在。
何かに感化されたかのように、ざわめき出す。


2009/11/24


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