崩壊
毒に侵された大地、赤黒い空。魔界に堕ちたこの地では、作物は育たず、微量な食糧を求め人々は争う。
無意味な殺戮。唯、死期を早めるだけ。そんな簡単な事にも気付けずに、一人、また一人と死んでゆく。
全てはアカのシナリオ通り。
音素意識集合体達のシナリオ通り。
ユリアの、シナリオ通り。
全てを掌握したアカは、主の様にセカイを見下し、唯々嘲笑する。次々と命の灯を消していく中、二人に堕された五人は、その宣告通り、全てを見させられていた。殺されもせず、狂うことも出来ず、赦しを乞うことも赦されもせず、目を逸らすことすら出来ない、そんな生き地獄の中を、淡々と生かされていた。
主の、気の向くがままに。
マリオネットの様に、決められた舞台の中で、糸に操られてくるくると。二人が飽きた頃、やっと解放される。糸を断ち切られ、死の安息を、漸く。
やがて、全ての生物が死に絶えた頃。
飽きた、と、アカは言う。弄ぶことも、嘲うことも、もう、全てに。
アカは、動き出す。
全てを、終焉(おわ)らせる為。
絶望的に崩壊(こわ)れた世界。
荒れ果てた荒野に、見当違いなまでに喜色を滲ませた声が響く。
「やっと二人きりだなッ!」
嬉しそうにアッシュへと抱きつくルーク。
その朱の髪を指で梳き、口元に引き寄せる。
「やっと終わるな。永かった」
「うん、ホント永かった。でも、やっと終わらせられる」
どちらからともなく、口づけを交わす。
ありがちな童話の、ありがちな最後の様に。
互いを貪るように重ねられる。漸く離れた時、ルークが小さく欠伸をした。
「眠いのか?」
「ん……疲れた」
「そうだな、そろそろ、俺達も休むか」
すらり、抜かれた剣。抱き合ったまま、互いの背に、その切っ先を向けて。
それは、唐突に告げられる。
「おやすみ、アッシュ」
「おやすみ、ルーク」
「「また会える日まで」」
ぐ
さ
ッ
(あかい色のふたご)
(仲よく口づけして)
(仲よく殺しあった)
And that's all...?
やっと『世界』にサヨナラ!
――――
ラクリモーザ=ディエス・イレ(怒りの日)の第18節。「(この日こそ)涙の日なれ」という意味。……だそうです。
2009/12/02
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