小説 | ナノ
自我の激しい佐疫くんが災藤さんに嫉妬する話

「災藤さんってかっこいいよね」
「そうだね」
「肋角さんとはまた違う色気があるっていうか…」
「手が動いてないよ。ついでに目も書類に向いてない」

頬杖を付きながら窓の外をぼんやり眺めていたなまえが急に口を開いた。書かなければいけない書類の山は先程からあまり減っていないように見える。なまえが見ている方に目線を向けると、窓の外で災藤さんが斬島と谷裂に何か指導している様子が見えた。恐らく鍛錬中なのだろう。そういえば俺も昨日あの中庭で平腹と先に膝を付いた方が負けというルールを作ってやったな。右腕にスコップを叩き下ろされて骨が折れたけど、いつの間にか治っていた。

「…ちょっとくらい休憩してもいいじゃん」
「いいけど、俺は手伝わないからね」
「えー」
「嫌ならさっさと終わらせる」
「佐疫、自分の先生が褒められたんだからもっと嬉しそうにしてもいいじゃん」
「俺の先生は肋角さんでもあるし災藤さんでもあるしたくさんいるの。一々反応してたらきりが無い」
「なんか今日冷めてるね」
「いつも通りだよ」

ムカムカする胸の内を抑えるので精一杯だった。目は書類に向いているけれど、内容は全く頭に入って来ない。なまえと一緒に過ごせると思って楽しみだった雑用も、ただ腹立たしいだけの時間に成り下がった気がする。怒りを込めてペンを動かしていると、筆圧をかけ過ぎて紙が破れた。

「あ、災藤さんが笑った」
「どうでもいいだろ」
「え?」
「なんでもない。よく見えるね」
「うん、気になるモノってやけに遠くても見えるんだよね」
「ふーん」

バキッという音がしたので手元を見ると、握った拳の中でペンが折れていた。なまえが驚いた様に俺の顔と折れたペンを交互に見ている。こんなに自己制御が出来ないだなんて、斬島と座禅でも組もうかな。

「ど、どうしたの?」
「なんでもないよ、最近重い銃ばっかり使ってたからかな」
「…ほんとに?」
「本当だよ」
「ふーん…ところで佐疫、昨日の腕の傷治ったの?」
「え?」
「右腕。わたし昨日もここにいたから見えたんだよね。痛そうだったけど」
「…見えたの?」
「うん、気になったから」

口元が綻びそうになるのを必死で抑える。さっきまで胸に立ち込めていた暗雲はなんだったのだろう。自分でも情けないくらい単純かつ解明に俺の心は晴れ晴れとしていた。たとえ勝敗の結果が気になっていたから、という些細な理由でも彼女の意識が俺に向いていた事が嬉しかった。ああ、彼女の一言でこんなに一喜一憂するだなんて。そのうちなまえの一言で誰かを殺してしまいそうだよ!







「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -