小説 | ナノ
斬島に泥酔しながらちょっかいをかける話

木舌ではないが、暑い日のビールは格別だった。冷えたジョッキに注がれた黄金色の液体を、「乾杯」の音頭と共に一口煽る。アルコールが疲れた身体に染み渡って心地いい。

「斬島〜、飲みっぷりが足りないんじゃないの〜?」
「お前は序盤から飲みっぷりが良すぎる」

木舌の手には、既に空になったジョッキが握られていた。乾杯をしてから数十秒しか経っていないというのに、こいつの肝臓はどうなっているのだろう。ピッチャーに入って置いてあったビールを再びジョッキにどぼどぼ注いでいる。「おかわりたくさんあるからね」と言いながら今度は田噛に絡みに行った様だった。数日前から企画されていたこの酒の場を、まだかまだかと毎日口にしていたのだから相当嬉しいのだろう。ふう、と一息ついて再びジョッキを煽った。


*****


「あ、斬島!悪いけど手伝ってくれない?」
「どうした佐疫」
「斬島が肋角さんと話してる間に、みんな潰れちゃったんだよ。だから飲み過ぎは駄目だって言ったのに…」
「田噛も潰れるなんて珍しいな」
「なんか、木舌が無理矢理みんなに飲ませて回ったみたいで…」
「血を流しているが、田噛に刺されたのか」
「ううん、それは俺が撃った跡だけど…」
「そうか」
「まあ木舌はどうでもいいけど、なまえちゃんも飲ませられちゃったみたいなんだよね。斬島なら安心だし、部屋に送ってあげてくれない?」
「分かった」
「よろしく頼むよ。送り狼にならないようにね」
「(送り狼…?)」

なまえの顔を覗き込むと、酔いが回ったせいでいつもは青白い顔が赤くなっていた。腕を背中に回して、そのまま負ぶう。いつも死にかけの平腹やだるいと言って動かなくなった田噛を引きずったり運んだりしていたので、男ではないとこんなに軽いのか、と驚いた。肋角さんに事情を説明して頭を下げ、宴会会場を後にする。しばらく起きる気配のなかったなまえが、急にがばっと頭を上げた気配があった。

「起きたか」
「…う」
「お前の部屋に行く」
「…なんで?え、誰…?」
「斬島だ」
「きりしま…?…なんできりしまが…」
「木舌に酒を飲まされて潰れたお前を部屋に送るように佐疫に言われた」
「ああ…木舌…」

しばらく間を開けて、「殺す…」と聞こえたので「死んでたぞ」と教えてやると再び背中に頭を乗せたような重みを感じた。なぜかそのまま胸の辺りに腕を回され、きつく締められた。「何をしている」と聞いても返事はなく、なまえの身体がやけに密着してくる。背中の辺りに柔らかい膨らみが当たっている事や、露になっている太ももが腰周りにすり寄って来ている事に気が付き「おい」と言うが「へへへ」とだらしない笑い声が返って来るだけだった。酔っぱらいというやつか。しかし、こうも身体をすり寄せられると落ち着かない。心臓の鼓動がいつもより早い気がする。耳元に息が当たり、思わずびくりと動きが止まると「ふへへ」と馬鹿にした様に笑われた。

「斬島が反応してる〜!」
「お前のせいだろう」
「でも、酔っぱらったレディーに変な気起こしちゃ駄目だからね」
「なんだそれは」
「送り狼にならないでねって事」
「佐疫も言っていた。どんな意味なんだ」
「えっとねー、送るという建前であわよくば部屋まで入り込んで、そのままベッドに入って酔っぱらった女の子といやらしい事しちゃうって事」
「そういう意味だったのか」
「へっへっへ、まあ斬島なら大丈夫だろうけどね」
「そうだな、送り狼にはならない」

そう言ってなまえを背中から下ろす。「え?置いてきぼり?」と言っているが何も答えずそのまま身体に覆い被さった。「へ?え?」と間の抜けた様な声が聞こえる。状況が理解できないらしい。

「部屋に送らなければそれに当てはまらないのだろう。ここなら大丈夫だ」
「えっちょ、」
「お前が悪い」
「き、きりしま、酔っぱらってる…?ここ外…」
「さあな」
「は、離れて」
「断る」


その日一番印象に残ったのはいつもより少し楽しげであまり視点の定まっていない斬島さんの顔でした。









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