小説 | ナノ
シスコン気味田噛




特務室、と書かれた部屋の前をソロソロと通る。目当ての人物を探してみるも、慣れない館の構造もよく分からずさ迷っていた。肋角さんのお部屋にお邪魔するのも、忙しそうだろうし気が引けた。そもそもここへ来た用事がそんなにたいした事ではない。けれども呼び出されては仕方が無い。それに、もしかしたらあの人に会えるかも知れない。

「どうしたの?」
「うわっ!」

振り返ると、まさに佐疫さんがいた。可愛げの無い声を上げてしまい後悔する。薄い水色の瞳にこれまた色素の薄いサラサラの髪の毛。優しげな表情を浮かべていて、頭も良い。非の打ち所のない素晴らしい人だ。

「ごめんね、驚かせちゃったかな」
「いえ、あの、すみません!」
「なまえちゃんが居るなんて珍しいね、何かあったの?」
「その、おに…兄を捜していて」
「田噛?さっき図書室で突っ伏して寝てたけどなあ。」
「う……」

きっと勉強とか調べものをしていた訳ではなく、静かで寝やすかったから図書室にいたんだろう。私の兄がだらしない、というか究極の面倒くさがりだと言う事は百も承知だが、佐疫さんにだらしない姿を見せないで欲しい。私までだらしがないと思われたらどうしてくれるんだ。恥ずかしくなって顔を伏せようとすると、視界の端に目当ての人物が見えた。

「あー!いた!」
「あ?うるせぇな…てめぇかよ」
「わざわざ来てあげたんでしょ!しかもたいした事無い理由でわざわざ呼び出して!」
「エサがあれば来るだろ」

私の前にいる佐疫さんをチラリと見てそう言った。こいつ….。思わず手が出そうになるが、佐疫さんがいる手前そんな野蛮な事はできない。それを見越していたかのように、にやりと笑った。後で絶対仕返しはしてやる。

「田噛、なまえちゃんも忙しいだろうし程々にしてあげなよ」
「さ、佐疫さん…!」
「いいんだよ、どうせまた下らねえ雑誌でも読んでたんだろ。愛される方法百選…だっけか?どうせ意味ねぇんだから時間の無駄だろ」
「お兄ちゃん、後でちょっと話がある」
「まあまあ、女の子らしくて良いじゃないか。で、何か田噛に用事があったんでしょ?」
「あ、そうだ…はい、これ」

突き出す様に布の包みを渡すと、「あー」と言ってきちんと見もしないで受け取った。本当にいちいち癪に触る…!

「なにそれ?」
「弁当」
「お弁当?なまえちゃんが作ったの?」
「は、はい!」
「食えるモン入ってんだろうな」
「じゃあ返してよ!」
「田噛、お昼食べる時間ないの?」
「仕事の都合でねぇんだよ」
「お弁当箱洗って返してよね」
「…ッチ」
「なまえちゃん凄いね、立派なお嫁さんになれるよ」

佐疫さんに笑顔でそんな事を言われて、顔が赤くなる。横から、「食えればな」と聞こえて来たので佐疫さんから見えない位置でお兄ちゃんの足を思いっきり踏むと、静かになった。

「…とっとと帰れよ」
「言われなくても帰りますぅ」
「なまえちゃん、またね」
「は、はい!お疲れ様です!」
「……」
「……」
「…お弁当、言えばキリカさん辺り作ってくれたと思うけど」
「だりい」
「田噛って、結構シスコンだよね」
「あぁ?」
「なまえ ちゃん愛されてるなあ」
「次同じ様な事言ったらぶん殴る」
「はいはい」




シスコン兄田噛


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -