小説 | ナノ
酔っ払い木舌に絡まれる話

「あ」
「あ」

また一人で飲んでる、と言おうとしたがその前に「なまえ!みんな冷たいんだよ、一緒に飲もうって言ったのに各々どこか行っちゃってさあああ」と泣きつかれた。大きな身体で泣きついて来ようとするものだから、とっさに避けると食堂の椅子に膝をぶつけてのたうち回っていた。つくづく可哀想だなと悲惨な光景を眺めながら思った。

「うう…どうしてみんな飲まないんだろう…?こんなに色んな酒があるのに」
「朝まで付き合わされるからじゃないかな」
「だって、あるだけ飲みきろうと思ったら必然的に朝になるじゃないか」
「そういう考え方がみんなと違うんじゃないかな」
「肋角さんと飲む時はいつも朝までだけどなあ…」
「肋角さんの肝臓はみんなと別物だからじゃないかな」

ぶつぶつ言いながらもテーブルの上の酒瓶から、なみなみと酒を注いでいる。グラスの酒を一気に飲み干すと、「ううぅ…昔はみんなもっとおれの事を慕ってくれてさあ…」と泣き始めた。質の悪い酔っ払いに成り下がった木舌を、たまたま居合わせたわたしはどうしたらいいんだろう。

「なまえだってさあ、立派な獄卒になったら、おれのお嫁さんになるって言ってたのに…」
「言ってないよそんなこと」
「言ってたの!それなのに今はこんなに反抗的になっちゃって…」

別に反抗的にしているつもりはないが、今の木舌にはそう見えるのだろうか。一応「ごめんね」と謝ってみると、ばっ!とこちらを見た。更には、緑色の瞳をみるみる潤ませてぐすぐすと鼻をすすり始めた。誰か助けて。

「うう、こんなにいい子なのはなまえだけだよ…」
「さっき反抗的って言ってたけど…」
「過去の事なんてどうでもいいさ!そうだなまえ、おれと飲もう!昔を振り返りながら思い出話と感傷に浸ろうじゃないか!」
「え、ちょっとわたし明日朝から仕事なんだけど」
「なんてことないさ、若さがある!ああ、若いって素晴らしいなあ。おれも昔は…」

ぐいぐいと肩を組まれて無理やり椅子に座らせられる。朝までなんてたまったもんじゃないと思い席を立とうとすると、腕を引っ張られ木舌の膝の上でがっちり拘束された。もがいてみるも、やはり力じゃ敵わない。

「ほら、お兄さんがお酌して飲ませてあげよう!」
「や、やめ、」
「遠慮なんてすることないさ!おれとなまえの仲だろう?よーし、このとっておきの焼酎にしようかなあ」
「わ、わたし焼酎のめな」
「はい、あーん」
「んぐっ」
「どう?おいしい?おいしいよねぇ、おれにも一口ちょーだい」
「う、やめ、」
「木舌、なにしてるの?」

優しげだけれどもとんでもない冷たさを含んだ一声で、木舌の顔に表情がなくなった。お酒で赤らんでいたはずの顔が不思議といつもより白く見えた。

「さ、佐疫、違うんだよこれはさ」
「何が違うの?」
「その、なまえが居たから折角だから一緒に飲もうと、」
「なまえは明日の早朝から俺と仕事なんだよね。支障が出たらどうしてくれるの?」
「あっ、はい」
「なまえ、もう部屋に帰りなよ。後始末は俺がしておくからさ」
「あ、ありがとう…」

縋るような目で見てくる木舌を振り払って席を立った。もうお前にやる慈悲は残っていない。「じゃあ、明日頑張ろうね」とにこやかに見送る佐疫の両手には二丁銃が握られていた。頭を下げてそそくさと食堂を出ると、ぱりん、だか、がたん、だか騒がしい音が聞こえた。木舌がなにか叫んでいたような気がするけど、何も聞こえなかったことにしておこう。








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