小説 | ナノ
素直になれない田噛(※ちょっと注意)

お前ちょっとこっちに来い、と呼んだ本人はソファーで寝そべっていた。仕方なくそちらへ行くと、そこに座れと指をさして指示された場所は床だった。それはないんじゃないか、と思いつつも正座をすると寝転がったまま口を開いた。

「脱げ」
「ちょっとなに言ってるの」
「説明すんのがだりぃ」

いやいやいやいや、と言うと舌打ちする音が聞こえた。何でわたしが舌打ちされなきゃいけないのかも田噛が何を思ってわたしに脱衣を指示したのかもわからなかった。世の中は理不尽なことばかりだ。

「ちょ、ちょっと一回説明してみてくれないかな」
「仕事終わりにヤる女探すのがだりぃ」
「え」
「お前なら大体ここいるし楽だろ。以上」
「ちょっとよく分からないんだけど」
「物分り悪ぃな」
「田噛が凄く無茶ぶりをしてるのは分かるよ」

はあ、と気だるそうにソファーから起き上がると力なく手招きをされた。立ち上がって恐る恐る近づくと、田噛の手のひらには飴玉がひとつあった。突き出されたので受け取り、「なにこれ?」と聞くと「1ヶ月分の報酬」と言われた。なんでわたしの意見を聞く前に決定してるんだろうとか、飴玉ひとつってとか色々突っ込みたいところはあった。しかし飴玉を受け取った腕を引っ張られ、そのままバランスを崩してソファーに倒れ込んでしまった。すかさず上に田噛が多い被さってくる。嫌な予感しかしなかったので手で身体を押し退けようとすると、脱ぎ捨ててあった上着の袖の部分で腕をぎっちり縛られた。きっと仕事の時はいつもこれくらいテキパキ動くんだろうなあ、流石獄卒。でもわたしは罪人じゃないんです。手馴れた手付きでシャツのボタンを外してキャミソールをまくり上げられる。ああ、適当な下着なのに…

「小せぇ」
「うるさいな、見ないでよ!」
「でけぇよりいいんじゃねぇの、俺こっちの方が好きだし」
「っ…、触んないでよぉ…」

鋭い歯で甘噛みをされて、思わず身体がびくりと跳ねた。唇を噛んで声を押し殺していると、田噛の舌がわたしの唇を這って、そのまま口の中に侵入して来た。久しく聞いていなかった卑猥な音がする。そう言えばキスをするのも久しぶりかも知れない。

「んん」
「お前女らしい反応できるんだな」
「…うるさい」
「そういや平腹も女探してるっつってたな」
「ま、まわす気…?」
「んなワケねぇだろ馬鹿」

再び田噛にキスをされる。でも今度はさっきみたいに歯を立てず、優しく唇に触れるだけのものだった。驚いて顔を見つめると、「ほんと頭悪ぃな」と言って多い被さって抱きしめられた。何が起きているのか分からず硬直していると、耳元で田噛の「平腹なんかにヤらせるかよ」という声で顔が赤くなった。世の中って理不尽で、よく分からない。でもせめて飴玉ひとつ以上の報酬は貰おうと思った。






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