小説 | ナノ
セックスしないと死ぬ子と佐疫※



一日一善という言葉がございますが、あれは一日一回良いことをしよう、という標語のようなものなのでしょうか。それとも、一日一回良いことをしないと気が済まない人を表す単語なのでしょうか。わたしの場合は後者です。気が済まない、というよりは体質でもっと重度な物で、良いことをする訳でもなく、セックスをする訳で、一日一善という志の高い言葉と比較をする事さえ如何なものかといったところなんですが。

「やあ、お帰り。おつかれさま」
「おつかれさま」
「いつもの?」
「うん、30分くらい、良いかな」
「いいよ。ていうかもうすぐ日付変わるし、来ると思って空けておいた」
「ごめん…」


いつもの部屋でいつもの行為がいつもの事。
上着を脱いで椅子に掛けると、後ろから佐疫の腕が回って来ました。服の中に手が入って来ます。

「ねえ、シャワー浴びてないよ。仕事終わりだし、汗とか…」
「気にしないよ。それに、そんなに悠長にしてたら今日が終わっちゃうよ」
「…ごめん」
「気にしないから。後で浴びればいい」


奇病?大病?そもそも病気?一日一回セックスしないと、なぜかわたしは死んでしまうのです。ずっと前からというわけではなく、二年前くらいかな。目の前が真っ暗になって、そのまま心臓が止まってしまうらしいです。らしいと言うか、自分の感覚とたまたま居合わせた周りの人の話を聞くとそんな感じだった。一日一回原因不明のまま死ぬ女として名を馳せた私は、このままでは仕事は勿論日常生活に支障をきたす事に気が付いて色々手を尽くしてみました。しかし努力のかいも虚しく改善の余地は見られません。自暴自棄になって酒をたくさん煽って、どこぞの誰だか分からない人とセックスをしました。すると何と、その日私は生きていたのです!変わったことと言えば、セックスをしたと言う事しか思い当たらずもう一日試してみたらわたしは二日間生き長らえました。それからです、わたしが毎日性行為に及ぶようになったのは。

「ここ、昨日は跡もなかったね。今日できた傷?」
「ん、うん」
「考えなしに突っ込んじゃ駄目だよ。平腹とは回復力も体力も違うんだから」
「ごっ…めん、」


一日一回セックス。簡単なように見えて、中々難しい事です。こんな事、みんなに言うわけにはいきません。どんな目で見られるか。かと言って、毎日夜の街に繰り出す訳にも行きません。ふしだらな獄卒がいる、だなんて噂になったら、わたしがみんなの面汚しになりかねません。ここは腹を割って誰かにお願いをするのが得策でしょう。でも、誰に?誰にこんな事を言えばいいの?みんなの顔がぐるぐると頭を巡ります。その時部屋に来たのが佐疫でした。渡された書類の話なんて全く頭に入らなくて、上の空で聞いていると案の定、「どうしたの?」と心配そうに聞かれました。最近のわたしの奇病の事も知っているのでしょう。「俺で良かったら、何か力になるよ」と言ってくれました。ふと時計を見ると、あと1時間で日付が変わるところでした。わたしがいつも死ぬタイムリミットは0時です。まるでシンデレラみたいだけど、魔法が解けるなんて可愛いもんじゃないです。

「お願いがあるの」
「うん、なんでも言って」
「わたしと、せっ…」
「え?ごめん、もう一回いいかな」
「せっ、セックスして欲しいの。今すぐ」


その時の佐疫の表情といったら。「なまえ、落ち着いて。そんなに自暴自棄にならないで」と、真顔で説得されました。事の経緯を説明すると、しばらく考え込んだ後に、「分かった」と快諾してくれました。しかし、快諾と言っていいのか分かりません。責任感の強い彼は、同僚としてこの哀れな女の窮地を救わねば、と自分の心を押し殺してくれたのかも知れません。本当に申し訳ない、少しでも嫌悪感があればどこか繁華街で探してみる、と言うと、そんな事をしたら体のいい性欲処理になるだろう、同じ館に済んでいて事情も分かっている俺の方が色々都合が良いよ、と返されました。ごもっともです。断る理由もなく、お願いしますと深々と頭を下げました。


「もう、いい?」
「んっ、いい、よ」
「…中、いつもよりキツ…」
「ふっ…えっ、そう?」
「…ねえ、なまえってさ、俺の居ない時はどうしてるの?」
「えっ…?」
「セックス、してるんでしょ?誰としてるの?」
「…飲みに、行って…知り合った人っ…と…んぅっ」


初めてした時、佐疫の手付きは手慣れたものでした。お互い性行為が初めてな訳でもないし、怖いとは思わなかったけどずっと同僚として一緒に居た佐疫の男の面を見て変な感じはありました。モテるんだろうし、女の人の悦ばせ方なんていくらでも知っているんだろうなあ、なんてぼんやり考えていました。渋々といった形でお願いした行為だったけど、思いのほか気持ちが良くて生きる為とはまた別の意味で佐疫とセックスがしたいと思い始めている自分がいました。勿論、そんな事本人には言いませんし、佐疫がこの毎晩の行為をどう思っているのかは知りません。


「じゃあ、これはそいつらに付けられたんだね」
「いたっ」
「裂傷じゃないと少し治りが遅いんだよ。だからこういう跡も残りやすいんだ、覚えておいた方が良いよ」
「さ、えき、いたい」
「でも気持ちいいんでしょ?」

佐疫ってもしかしていたぶるのが好きなのかな、と思う事が何度かありました。お酒が入っている時とか、行為の最中に熱が入った結果とか。今だって、わたしの首に爪を立てて嬉しそうに息を荒げています。佐疫の言う通り、その痛みでさえも気持ち良いので反論はできません。

「なまえと俺、ずっとこういう事してるからさ、他の男に抱かれるのが何か許せなくて」
「所有物じゃ、ないんだから」
「うん。でもさ、もはや俺が居なきゃ生きられないと言っても過言じゃないでしょ?そういう意味では所有物」
「…ばっか…ぁんっ」
「なまえ、今日、中でもいいよね」
「へ、え…?だめ、今日、」
「危ない日でしょ、知ってるよ。だからだよ」
「え、や、だめ」

抵抗しようと伸ばした腕は佐疫の右腕で押さえ付けられ、やめて、と叫ぼうとした口は左手で塞がれました。いつもの佐疫からは想像できないくらい強い力でぎりぎりと手首を抑えられ、痛みに顔を顰めると満足そうに笑ってわたしの抵抗虚しくぶち散けられてしまいました。生暖かい液体が足と足の間を伝う感覚に、呆然としていました。一体今日の彼はどうしたと言うのでしょう。素面の時は、いつももっと優しいのに。当の本人は、全く力の入らないわたしの身体を抱き上げると、そのままシャワールームの方へ歩き出しました。

「…なんでこんな事するの」
「最初にこんな事を頼んで来たのはなまえだろ」
「でも、だって」
「毎日こういう事してる内に、段々俺の物って感じがして来ちゃってさ。だから、俺がいない時は潔く死んでね。他の奴に頼んでた事が分かったら、俺がなまえを殺しちゃう。そして生き返ったらまたリセットして犯してあげるね」


生きる為のセックスが段々自分がしたいが為のセックスになるなんて、わたしは少しおかしくなってるのかも知れない、と思ったけど佐疫の方がだいぶおかしくなっていたみたいです。汗かいちゃったね、シャワー浴びる?と涼しげな顔で言う佐疫を見つめて、こいつも病気かもな、と思いました。








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