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みんなで偽物を追いかける話

がっしゃん、だか、がったん、だか大きな音がした。一緒に廊下を歩いていた斬島と顔を見合わせる。

「なんだろうね」
「なんだろうな」

その後にばたばたと誰かが走ってくる音がした。近づいて来る、と思ったら平腹がすごいスピードで走って来た。私の顔を見ると、「あーーーっ!!!」と言って急ブレーキをかけた。顔を見ると、頭から血が垂れている。「どうしたの、」と言いかけたところで「てめぇぇぇぇ」とスコップを振りかぶってきた。斬島が刀で止めてくれなかったら、今頃私の脳天はぱっくりいってた。

「ちょ、なんなのいきなり」
「こっちのセリフだ!」
「ええぇ」
「オマエ、いきなり本棚ぶっ倒して来やがって!頭打ってバカになったらどーすんだよ!!」
「打たなくても馬鹿だろ」
「あ、田噛…なにこれ…」
「お前が平腹の後ろの本棚ぶっ倒して平腹がキレた。以上」
「なまえは俺とずっと一緒にいたぞ」
「ほ?んー…斬島が言うならそうなのか、ウソつかないもんな」


平腹の言葉に激しく首を上下に振る。ありがとう斬島、本当にありがとう。この30分間くらい斬島と一緒にいて良かった。今度なんか奢ります。

「でもあれ、お前だったけどな」
「田噛、一部始終見てたの?」
「ああ」
「何で止めてくれなかったの?」
「だるいだろ」
「ひでぇ!!」

ぎゃあぎゃあ騒いでいる平腹の頭の出血は収まりつつある。平腹の怪我はもうどうでもいいとして、私によく分からない冤罪がかかっているのは困る。また別の奴に何かあって責め立てられるのもとても困る。と思った矢先に、「きさまああぁ!」という大声が聞こえて来た。嫌な予感しかしない。斬島が振り返った。

「谷崎、どうした」
「どうした、じゃない!!きさまだ!呑気な顔をしおって!!」
「そ、そんな顔してな、」
「そんな事はどうでも良い!!きさま、そこに直れ!!女としての立ち居振る舞いと言うものを一から教えてやる!!!」
「えっ」
「あ、みんな」
「さ…佐疫ぃ…」


当初の平腹と並ぶ凄い剣幕で詰め寄って来た谷崎の後ろから佐疫がやって来た。助けて、と目線で伝えると何かを悟ってくれたらしく私と谷崎の間に割って入ってくれた。ありがとう、何か奢ります。

「谷崎、どうしたの?」
「どうしたもこうしたもない!こいつが…!」
「なまえが?」
「こいつが!その…」
「その?」
「し、した、した…」
「した?」
「下着を…」
「下着?」
「ええい!この女がいきなりスカートを捲り上げて来たのだ!!俺の!鍛錬中に!」


何も口にしていないのにむせるかと思った。もちろん私はそんな事をしていない。そんな自殺行為に等しい事、しようとも思っていない。怒りなのか羞恥心なのか、谷崎は顔を真っ赤にさせて私を指差して、「きさまには一度女としての生き様を…!」と怒鳴っているが、指差している拳が震えていた。言葉が出て来ず、口をぽかんと開いていると斬島が事のいきさつを説明してくれた。その横で佐疫も谷崎をなだめている。なんとか納得してくれたらしく、九死に一生を得た。斬島、佐疫ありがとう。今日の夕飯もごちそうします。

「普通に考えて、お前の偽物でもいるんじゃねえの?」

ずっと退屈そうにしていた田噛が、欠伸をしながらごもっともな事を言った。何か腹が立つけど、正論だ。佐疫もそれに頷く。

「そうだね。斬島の時みたいに、何かしらの対象を模倣する怪異かも知れない」
「早めに処理した方がいいな」
「え!?なになに!おもしろそー!!」
「貴様は引っ込んでいろ!話がややこしくなる!」
「あれー?みんな、何してるの?酒盛りでも始まるの?」

場違いな呑気な声がした。木舌だ。全員に白い目で見られ、「え、あれ、おれ何か悪い事した?」とたじろいでいる。タイミングが悪いとしか言いようが無い。

「コイツの偽物が出たんだよ」
「え、なまえ?あれ、さっき向こうの部屋にいなかった?」
「見たの!?」
「うん。声掛けたんだけど、そのまま肋角さんの部屋の方に行っちゃったよ。それよりみんな、このお酒一緒に…」
「行ってみた方が良いね」
「ああ、行くぞなまえ」
「う、うん」
「オレも行くー!!!
「だりい…」
「肋角さんが危険だ!行かねば!」
「え?ちょっと、お酒…」

木舌がなにか言っていた気もするけど、今は肋角さんの部屋へ向かうのが最優先だ。一番勢いよく駆け出した谷崎が、バン、と大きな音を立てて扉を蹴破ると、そこには座って書類を読んでいる肋角さんの肩に腕を絡めた私がいた。一瞬膝から崩れ落ちそうになったが、なんとか堪えた。

「ろ、ろ、ろっかくさん、これは一体…」
「ああ、全員揃っているのか。ちょうどいい」
「そ、それは、何の」
「怪異だ。しかし、少し悪戯好きでな。もちろん致命的な害はない様に仕上げている」
「え、だってそれ、え?」
「仕上げている、という事は何かしらの訓練済みですか?」
「勿論そうだ、流石だな佐疫」
「!お、俺だって気付いていました!」
「えー!だって谷崎、さっきあんなに顔真っ赤にして、うげっ」

谷崎の拳がみぞおちに命中して、平腹が崩れ落ちた。それはどうでも良いとして、問題はなぜ私の偽物が肋角さんにべたべたしている。自分の顔がこっちを見てニヤニヤしている。なんか気持ち悪い。斬島もこんな気持ちだったのかな。

「近頃人手不足でな。斬島の報告書を読んで、似た様な物を見つけたのでこっそりなまえで試させてもらった。悪かったな」
「え、いえ、それは」
「…獄卒を模倣させた怪異を人員にというお考えですか?」
「そうだ、斬島。最近お前にも無理をさせてしまっているからな。皆の為、と思ったんだが、随分騒がせてしまったみたいだな。済まなかった」
「ろ、肋角さん…!」

そんなに私たちの事を考えていてくれたなんて…!思わず目頭が熱くなる。谷崎は既に涙ぐんでいた。こいつは肋角さんが関わると感情が豊かになり過ぎじゃないのか。

「まだ試験的ではあるが、実践で使えそうになったらお前達も随分楽になるだろう。それまでの辛抱だ、期待しているぞ」

肋角さんの言葉に、全員が勢いよく「はい!」と返事をする。田噛に関してはサボれるという希望を抱いている気がしてならないが、気付かなかった事にしておこう。

「そういえばそれ、どうするんですか」
「ああ、そうだな…誰かに面倒を見させるか」
「俺やります」
「田噛、それ絶対パシリにする気でしょ」
「…チッ」
「ふざけんな」



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