小説 | ナノ
木舌とダイエット


「太った」
「それ、おれに言ってるの?」

木舌が緑色の瞳でわたしをぱちくり見つめる。手元の酒を煽ると、喉がごくんと上下した。ちなみに現在まで開けた缶ビールは5本。プリン体オフと書かれた缶を見つめる。とか言っても、カロリー計算をしたらそんなに変わらないと思う。そんなの結局気休めだよ。まあわたしの手にも同じ缶が握られているわけだけど。そしてこの酒を選んだのもわたしなんだけど。


「木舌にも言ってる」
「おれ以外は?」
「わたし」
「あー」
「ええい、触るな!そっちも人の事言えないんだからね!」
「おれのは骨太って言うんだよ」
「そういうの言い訳って言うんだよ」


一気に冷蔵庫から取り出したビールは当初より幾分ぬるくなってる。残りを冷やそうと腰を上げると、「あれ、もう飲まないの?」と後ろから木舌が言う。飲まない、と言いたいところだがそうとも言い切れない。きっとまた数10分後には、冷蔵庫から再び冷えたビールがコンニチワしているんだろう。

「わたし痩せる」
「そういうのは、飲む前とかに宣言しないと」
「木舌もダイエットした方がいいよ」
「えー、その内ね」
「佐疫さあ、この前肋角さんに直談判しようとしてたよ」
「なんだって」
「ね、お酒止めるか痩せるかだったら、どっち取る?」
「……減量」


よし、これで道連れができた。わたしが必死で炭水化物やアルコールを避けているところ、こいつに目の前で酒を飲まれるのは癪だった。「今日から仲良く禁酒生活だね」と言うと、はあ、とため息のあとにお腹をポンポン叩く音が聞こえた。

「そんなに見つめたって引っ込まないよ」
「もう歳かなあ」
「やだ、ジジくさいのが伝染る」
「ねえなまえ、効率のいいダイエットしない?」
「どんな?」
「セックス。気持ちいいし汗もかくし、一石二鳥」
「ばっかじゃないの」

空き缶を投げると、カン、という音と共に木舌の頭に命中した。「いて」と頭をさすっているが、知ったこっちゃない。

「楽して痩せようとするんじゃない」
「でもさあ、辛いよりは楽しい方がいいじゃん。回り道を考えず真正面から辛いことにぶつかっていくなんて、馬鹿のすることだよ」
「斬島に謝って」
「あれはまあ、別物だな」


話の流れが変な方に行ってしまい、気まずくなって煙草に火を付けようとすると横から取り上げられた。睨んで抗議すると、「喫煙は健康に悪いからね」と間延びした口調で言い、指で煙草をへし折った。ああ、勿体無い…。「そんなに口淋しいなら、いいものをあげるよ」という声が聞こえたと思うと、木舌に引き寄せられそのままキスをされた。頭をぶん殴ろうとすると、そのまま腕を掴まれて舌を侵入させられる。しばらく口内を掻き回された後に開放された。「レイプ魔死ね」と言うと、「じゃあ本当にレイプ魔になろうかな」と言って木舌の身体がわたしに覆い被さり、ゆっくりとベッドの上に押し倒された。酔いが回った緑の目が潤んで、いやにキラキラして見える。わたしの目もこんな風になってるのかなあ。「とりあえず今日の分のカロリー消費ね」と、へらへらした口が喋る。たぶん事が終わった後には、いい汗かいたとか言って二人で冷蔵庫から冷えたビールを取り出して飲んでいる気がする。本末転倒。あーあ、ダイエットなんて言わなきゃよかった。




――――――――――――――

リクのプニプニ木舌でした。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -