小説 | ナノ
佐疫と晩酌


目の前には色とりどりのサラダやパスタ等の食事が準備されている。更にワイングラスも。もちろん私がセッティングした物ではない。私の部屋のテーブルはこんなに綺麗に片付いていないので、まずお皿を置く場所を作るところから始めなくてはならいないので、もちろん私の部屋でもない。佐疫の部屋だ。テーブルセッティングも食事も佐疫が準備したものだ。

「佐疫…えっと…こんなに丁寧に準備してくれなくても大丈夫だったのに。なんか気使わせちゃってごめん…」
「えっ!ごめん、イメージと違ったかな…」
「いや、イメージ以上過ぎてびっくりしたの!凄い嬉しい!」
「なら良かった」


「明日非番でしょ?いいワイン貰ったから、ちょっと飲もうよ」と誘ったのは昨日の夜の事だった。佐疫はあまりお酒を飲むイメージはなかったが「え、いいの?ありがとう。じゃあ俺の部屋で良ければ準備しておくよ」と快諾してくれた。 せっかくの申し出だったのでお言葉に甘える事にしたが、準備ってそんなにする事あるのかな、と思いつつ今日の夜佐疫の部屋を尋ねてみて冒頭に至る。 「あ、ちょうど良かった」と優しげな笑顔で出迎えてくれた部屋の主のテーブルには、どこぞのホテルのディナーでもおかしくないような料理が並べられていた。私はこんな物作れない。

「佐疫…これ全部作ったの?」
「うん。俺もなまえも仕事だったし、せっかくだから食事も一緒の方が良いかなって。一応好き嫌いがありそうな物は避けたんだけど…」

ひええ、と思いながら佐疫の言葉を聞く。

「あ、もしかして、食事済ませて来ちゃってた?」
「いや、全然!仕事終わりですごいお腹減ってる!」
「良かった、俺もお腹空いてたんだ。どうぞ」

ホテルマンばりに椅子を引いてくれた佐疫に「失礼します」と恐縮しながら席につく。なんて完璧なんだろう。木舌と飲むノリで柿ピーとかスルメとか買って来なくてよかった。
持って来たワインを渡すと、これまたソムリエばりに2つのグラスにワインをついで、「はい」と私に渡してくれる。ここはホテル?もっとちゃんとした服着て来た方が良かったのかな。


「じゃあ、お疲れさま」
「あ、お疲れさまです」

乾杯をしてグラスに口を付ける。うん、美味しい。しかしその間にも佐疫はサラダを取り分けていた。恐るべし女子力。女子力のないわたしは、ありがたく取ってもらった料理をただ食べることに専念する事にした。


「ワインも美味しいし、お料理も全部美味しい!佐疫って本当に何でもできるんだね」
「そんな事ないよ。ただ、女の子だとこういう感じの方が良いのかなって思って」

感涙物だ。「お前はずっとスルメでも噛んでればいいんじゃねえの?」と言った田噛に聞かせてやりたい。それを笑った平腹にも。

「でも、佐疫みたいな人と付き合える人は幸せだろうね。佐疫はどんな人が好きなの?やっぱりすごくおしとやかなで大和撫子みたいな人?」
「あはは、なにそれ。なまえはどうなの?木舌なんか仲良さそうじゃん」
「いや、木舌はお兄さんみたいな感じだしなあ…。田噛も平腹も仲の良い同僚感覚だし…谷裂はなんか怖そうで近寄りにくいし…斬島は真面目すぎるからなあ」
「俺は?」
「え?」

思わず顔を見ると、いつもの優しい笑みを浮かべた佐疫と目が合う。佐疫?佐疫はそんなに考えた事なかったなあ。でも…
「佐疫は、なんか…高嶺の花って感じ」

男の人だけどね、と付け加えると、佐疫はちょっと視線を伏せて何か考えている様子だったが、しばらくすると席を立ち、隣へ来て私の手を取った。

「え、ちょっとなに」
「高嶺の花なんかじゃないよ。ほら、いつでもなまえに触れられる」
「わ、佐疫、」


佐疫は私の手袋を外すと、膝を付いて手の甲にキスをした。佐疫の唇が私の手の甲に触れている。お、おうじさま、と思わず声が漏れそうになったけど堪えた。にっこりと微笑んだ水色の目が私を見つめている。顔が赤いのはきっと、ワインのせいだ。







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