小説 | ナノ
ヤンデレに追いかけられる木舌A

「うっうう、き、木舌さんっ、ごめんなさい、ごめんなさい」

医務室へ行くと、木舌の寝ているベッドの横に座り込んでずっとすすり泣いている女がいた。よく分からないが、こんな奴がいるなら様子を見に来なくても良かったのではないか。一緒に来た斬島をチラリと見たが、こいつはいつもの表情のままだった。

「おい、あの女なんだよ…」
「俺は知らない、田噛の知り合いか」
「俺だって知らねえよ…めんどくせえ…」

そのまま踵を返して部屋を出ようと思ったが、斬島は果敢にもその女の傍へ歩み寄った。しかし、女は顔を覆って泣いているので気付かない。斬島が肩に手を置くと、やっと気がついた様に顔を上げた。しばらく泣き続けているのか、大きな目が赤く腫れていた。女は俺達を一瞥して抑揚のない声で、「…なに?」と言った。愛想のねぇ女だな。

「木舌の同僚だ、見舞いに来た。お前は何をしている」
「木舌さんが起きるまで傍に居るの。当たり前じゃない」
「どうしてだ?」
「木舌さんが好きだから。私が一緒に居たのに、木舌さんに怪我させちゃった…う…っき、きのしたさん…」
「それはお前が気に病む事ではないだろう。怪我をしたのは木舌の自己責任だ」

斬島が言い終わるか終わらないかのタイミングで、医務室に鈍い金属音が響いた。見ると、その女が斬島に向かって小型の金槌を振り下ろしていた。色々突っ込みどころはあるが、まずこの女どこにそんなモン持ってたんだよ…。斬島は表情を変えないで刀でそれを防ぎ、「なんのつもりだ」と聞く。お前はもうちょっとリアクションしろよ。


「木舌さんを侮辱するな」
「侮辱はしていない。木舌は仲間として信頼している。そういった意味合いの事は一切言ったつもりはない」
「そう、ならいい」

すげえめんどくせえ事になっている気しかしなかった。俺は仲介役なんて一切する気はないが、そういえばこの場には佐疫も谷裂も居ないのだった。木舌も意識ねぇし。そっと部屋に戻ってしまおうか、と本気で考え始めたところで、「…う」と元凶らしき奴の呻く声が聞こえた。がばっと女が木舌の方を向く。ゆっくりと木舌の目が開いた。

「…ん?あれ…」
「き、木舌さん…!!良かった…」
「あれ、なまえちゃん…なんで…」
「ずっと傍に居ました…凄く心配で心配で…」
「あれ、斬島…と田噛もいるのか」
「傷はもう大丈夫か」
「ああ、治りの方はもう大丈夫そうだな。田噛、なんでそんな離れた所にいるんだよ」
「…そこの女がさっき暴れたからだよ」
「えっ、なまえちゃん何したの」
「大丈夫だ、話はついた」
「ほ、本当に?まあ斬島がそう言うなら…」
「つーか、その女は一体何なんだよ」

一番最初に聞くべき事だろ斬島、と内心ずっと思っていた事を聞く。木舌がばつが悪そうな顔をして、「いや、その…」と口ごもっていると、横からその女が「木舌さん、人の前で言うのは恥ずかしいです…」と口を出して来た。「木舌、ついに酔ってやらかしたのか」と言うと、「違う違う!」と慌てて手を振って訂正しているが、あまり説得力がない。

「木舌さんも照れてるんですね、でも大丈夫ですよ。私は木舌さんの全てを好きですから。あ、眠ってる間に着替えと、身体はタオルで拭いておきましたよ!ちょっと恥ずかしかったですけど…」
「うわああああ勝手に何してるの」
「木舌、程々にな」
「やめて斬島!佐疫とかに言わないで!社会的に殺される気がする!」

焦っている木舌を尻目に、「帰るか」と斬島に言うと「そうだな」とあっさり同意した。「ちょ、ちょっと待ってくれよ…」という情けない声が聞こえるが、聞こえなかった振りをする。部屋を出ようとた去り際に、「あ、そうだ」と振り返った。半泣きの様な顔でこちらを見ている木舌を指差す。

「その女、一緒にいるとその内お前が別の女に手ぇ出すとか下手な事した時に、死人が出ると思うぜ」

そう捨て台詞を吐くと、なまえちゃんと呼ばれていたその女が再び立ち上がって金槌を握りしめるのが見えた。しかし今回は木舌の「ちょ、お願いだからやめて」と言う声に大人しく座った。木舌の言う事なら聞くんだな。「じゃあな、くれぐれもとばっちりが無い様にしてくれよ」と言って部屋を出る。斬島の「仲良くな」と言う一言で扉を閉めた。「はあ」とため息が漏れる。

「変わった女だったな」
「変わったどころじゃねぇよ…お前もよくキレなかったな」
「なぜだ?」
「なぜだって…はあ、もういいわ」

知っていた事ではあるが、ここには癖のある奴らが多過ぎる。「俺はやっぱ突っ込み役には向かねえわ」と言って歩き出すと、「どこへ行くんだ」と言われたので、「部屋戻って寝る。一気に疲れた」と言って後ろ手に手を振って部屋へ向かった。谷裂なんかはいつも苦労してんだろうな。




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