小説 | ナノ
佐疫と潜入捜査



「ここに行って来て欲しい」

そう行って渡された書類には、どこぞの大きなパーティー会場の概要と地図が載っていた。「え、慰安旅行ですか?」と聞くと、「馬鹿者、仕事だ」と無表情で返された。まあ、そうですよね。

「今回は潜入捜査だ。この建物で催し事があると、どうやら怪奇現象が起こるらしい。それも人が集まっている時に限り、だ」
「はあ」
「という訳で、お前には参加者として任務に着いてもらう」

やった、美味しい食べ物とお酒が飲み放題かもしれない。内心そんな事を思っていると、肋角さんは見透かした様に赤い眼を光らせて、「もちろん、それなりの地位の人間が集まる場所だ。それ相応の作法は身に付けてもらう」と言われた。ぎくり、と肩が縮まる。ん、作法?

「肋角さん、わたしテーブルマナーとか、初歩的な事がうろ覚えな程度なんですけど…」
「もちろん、叩き込め。いわゆる財力のある人間が集まる場だ。お辞儀の仕方からダンスまで身に付けてもらう」
「え、そんな」
「まあ、一人で行く訳ではない。こちらとしても不安だからな。佐疫を同行につけた。一通りのマナーはあいつに教えてもらえ」
「そんな、そしたら私が行く必要はないんじゃ…」
「男女一組の方が自然だからな。残念ながらちょうど仕事が空いていたのがお前だった。話は以上だ」


パイプをふかしながら、もう話す事はないと言わんばかりに手元の書類に目を落とす肋角さん。何を言っても無駄なんだろうな、と思い「…失礼しました」と行って部屋を出た。はあ、と大きなため息をついてがっくりと肩を落とす。楽な仕事が回って来た、と思ったのにそうではなかった。世の中そんなにうまい話はないらしい。


「あ、なまえ。ちょうど良かった」

声を掛けられて振り向くと、佐疫がこちらへ歩いて来た。「お疲れさま…」と力なく言うと、「あ、次の仕事の話聞いたみたいだね」と爽やかに言われた。ご名答だ。佐疫の方を向いてがばっと頭を下げる。

「佐疫様、お願いします。私に礼儀作法を教えて下さい」
「あはは、そんな事しなくても肋角さんに言われてたし、そのつもりだったよ」
「ほ、本当!?」
「そのかわり、日にちも少ないからちゃんと覚えてね。当日フォローできないヘマがあったら、分かってるよね」
「う、あ、はい」
「うん、じゃあ早速これ」

そう言って数枚の紙を手渡される。受け取って見ると、細かいスケジュールがびっちりと書かれていた。少し見ただけで目眩がする。

「……なにこれ?」
「もちろん、スケジュールだよ。ちなみに今日の夕食はあと15分後。テーブルマナーから覚えて貰うから。その後は言葉遣いと挨拶の練習、それが終わったら誘われても恥ずかしくない程度に踊れるようにダンスの練習だから」
「え…」
「もちろん、全部俺がついてるから。その分の時間は肋角さんにも許可を取って貰ってるから大丈夫だよ。あと、当日にコルセットが苦しいとか言って動けないなんて事にならないように、今から付けて慣れてた方が良いかもしれないね」
「こ、こるせっと?」
「立ち姿ももう少し綺麗にした方が良いなあ。ほら、肩を開いて背筋を伸ばして」
「え、こ、こう?」
「もっと!あと顎を引いて、上から釣られてる感覚で」
「つ、釣られる?」
「まあ、その辺りも夕食後に教える事にしようか。あ、そろそろ夕食の時間だね。さあ行こうか、教えた事を2回間違えたら、次はないと思ってね」


表情は笑っているものの、言っている事は笑えない。引け腰になっている私の肩に手を置き、有無を言わさず食堂の方へ連れて行かれた。わたしは任務当日まで無事にやっていけるのだろうか。


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スパルタ佐疫
続かせてみせたい


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