小説 | ナノ
平腹で朝帰りしちゃった話

朝起きると平腹が横にいた。まず、ここはどこだ、と思った。辺りを見回してみると、わたしの部屋ではない。という事は平腹の部屋だろう。そこまで理解して色々疑問が生まれる。まず、何で平腹と一緒に寝ているの?あとなんで平腹の部屋にわたしはいるの?そしてどうして服を着てないの?おかげでちょっと寝冷えした気がする。いや、どんな事はどうでもいい。横で安らかな寝息を立てている奴を起こさないように、そっとベッドから出ようとすると、「…んー?」と言う寝ぼけた声が聞こえた。こいつ、普段は叩いても起きないくせにこんな時だけちょっとした物音で起きるなよ。

「…あー、なまえ、さみぃ」
「…わたしも寒い」
「…んー…今何時…?」
「9時」
「うげ…田噛に殴られる…」

そう言ってもそもそ布団から出て来た平腹は、未だに寝ぼけた目をしている。がしがしと頭を掻いて、「ねみぃー」と言っている。いつもと変わらない平腹だ。一瞬夢かと思ったが、夢じゃないらしい。

「オマエ、今日仕事?」
「いや、休みだけど…」
「まじか、いいなー変わってくれよ」
「嫌だけど」
「ケチ」

そういってあくびをしながら立ち上がる。お前もなんで下着のみなんだよ。混乱しているわたしを他所に、「シャワー浴びてくっかなー」と呟いている。なにこれどういう事。思い切って口を開いた。

「あのさ、平腹」
「あー?仕事代わってくれんの?」
「代わらない。そうじゃなくて、なんでわたしここにいるの?」
「昨日飲んでたじゃん」
「ああ…うん。それは覚えてる。でも平腹の部屋じゃなかったよね?」
「木舌んトコでみんなで飲んでた」
「そうだよね、それでなんで平腹の部屋にいるの?」

あと、なんで一緒に寝てるの?そしてあられもない姿なの?とまでは恐ろしくて聞けなかった。しかし、そんなわたしの心境はお構いなしに無慈悲な答えが返って来る。

「オマエが泥酔してたから、オレが送ってやる事になったんだよ。でもオマエ、離れねーし。しょーがねーからオレの部屋に置いといた」
「……それで?」
「覚えてねーの?一緒に寝るって言い出して、乗っ掛って来てオレのパンツに手ぇ掛けてきて、そのままセッ」
「うわあああああ!!」

耳を塞いで大声を出し、それ以上何も聞こえない様にした。「オマエ馬鹿だなー」と言われた。確かに馬鹿だけど、お前に言われたくない。昨晩の自分を恨んだ。いや、それよりも気の遠くなるような量の酒を飲ませて来た木舌を恨んだ。許さない。

「……夢じゃなくて?」
「夢だったらオレ、もう一回寝るわ」
「ああああ…」

頭を抱えて呻いた。「まあいいんじゃねーの?」という非常に楽観的な言葉が聞こえたが、良くない。布団に顔を埋めると、「でもオマエ気持ち良いってすげぇよがって」という声が聞こえたので再び「あー!!!」と大声を出してそれ以上聞こえないようにした。

「オレ別に誰かに言いふらすつもりねーし、嫌ならオマエも黙っとけばいいじゃん」
「え?」
「だからぁ、変に心配しなくていいっつってんの」

再び「馬鹿だなー」と言われて平腹を見ると、やはりいつもと変わらない顔をしてる。こいつ、こんな奴だったっけ…。

「あー、ねみぃー。オレもうすぐ仕事行くけど、オマエどうすんの?」
「えっと、部屋戻る…」
「じゃあ、鍵開けっ放しでいいや。あー、田噛に殴られんのやだなー」

そう言って「じゃーなー」とシャワールームを消える平腹を呆然と見送る。なんか、思ってたのと違う…。いや、そもそも起きた時の状況から思ってたのと違ってたんだけど…。床に落ちていた服を拾い、誰もいないタイミングを見計らって全力で自分の部屋へ戻りシャワーを浴びると、胸元に赤い跡が付いていた。やっぱり夢じゃなかった。「…あああ」と本日何度目か分からないうめき声を上げながらしゃがみ込む。同様しているわたしの心境とは反して、いつもと変わらない平腹の態度を思い出す。くそ、なんか悔しい。なんなのあいつ!!



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大人な平腹


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