小説 | ナノ
ヤンデレっぽい悪い佐疫と穴掘り組

※佐疫くんがただの悪者です





なまえの肩の痣に気が付いた。たまたま目に触れたそれは黒っぽい紫色をしていて、俺たちと同じように蒼白いなまえの肌にくっきりと浮かんで見えた。平腹がなまえを呼び止めるときに衣服を掴んだ際、Tシャツがずれて後ろにいた俺は気が付いたが、平腹は気付いていない様子だった。慌てて衣服を正すなまえを尻目に、「なあなあ!この前の漫画の続き貸してくれよ!」と騒いでいる。そういえば、最近なまえと仕事以外で会わないな、と思った。遊びに行こう、メシに行こう、と平腹が誘ってもずっと断られていた。「オレなんか嫌われてんのかなあ」と一週間近く「なあなあなあ田噛」と話し掛けられ続け、いい加減無視する方が面倒になり、なまえに「おい、メシ行かねぇか」と誘ってみたが、結果は平腹が受けているそれと同じだった。それを平腹に伝えてやると、「なーんだ!嫌われてんのは田噛も一緒だったんだな!」とほざきやがったので殴った。今日食堂に一人でいるのを見かけたのは、奇跡に近いのかもしれない。あいついつもどこでメシ食ってんだよ。

「おい」
「あ、田噛…」
「二週間振りくらいじゃねぇか。死んだのかと思った」
「やだな、物騒な事言わないでよ」

そう言って笑うなまえの顔はどこかぎこちなかった。平腹に突っかかられた時から、まるで何かを探すように視線だけがキョロキョロ辺りを見回している。そんな事お構いなしに、平腹が口を開いた。


「なあなあ、なまえ!なんで最近部屋いねーの?」
「え」
「オレさー、漫画借りたくて何回か行ったんだよ!あ、ちゃんとノックしたぜ!でも五日間くらい音沙汰ねぇしさ、蹴ったら開いたから入ったんだよ!そしたらなまえいねぇし、仕事にも行ってねぇって言うからさ!」


なまえの顔色が一層青ざめる。俯いて黙り込んでしまったなまえを見て、「おい、お前大丈夫か」と肩に手を置いた瞬間、「どうしたの?」という穏やかな声が聞こえた。なまえの肩が触れていないと分からない程小さくびくり、と動いた。振り返ると、佐疫が緩やかな笑みを浮かべて立っていた。


「平腹、ずいぶん騒がしいみたいだけど」
「あっ、佐疫!聞いてくれよー!なまえが漫画の続き貸してくんねーんだよ!部屋にもほとんどいねぇし!」
「へえ、なまえ漫画なんて読むんだね」

知らなかったよ、と佐疫が笑顔を向けるが、なまえは目を合わせようとしない。
沈黙が続く中、思いもよらない言葉で沈黙を破ったの平腹だった。


「そういえばさー、オレ佐疫の部屋通った時、なまえの声聞いたんだよな。あれ、なに?」


平腹の目は笑ってなかった。しかし、佐疫の目も笑ってはいなかった。なまえが驚いたように、「ひ、ひらはら」と言うが、「なまえは黙っててくんない?」と言われ口を噤む。不安げに俺の服の裾を掴んだなまえの手元を、佐疫が冷たい視線で見ていたのを見逃さなかった。しかし、平腹の言葉は続く。


「なんかさあ、すげー謝ってんのが聞こえたの。喧嘩でもしたの?でもさぁ、泣いてる声だったんだよなあ」
「………」
「佐疫、女の子泣かせるキャラじゃねーもんな。でもなまえ仕事でもねーのに怪我してるしさ」

気付いていたのか、と思った。佐疫は口元に笑みを浮かべてはいるが、目は全く笑っていなかった。平腹も同様だ。

「平腹は盗み聞きが趣味だったのかい?あまりいい趣味とは言えないね」
「お前こそ女いたぶるのが趣味だったの?キモチワリぃな」
「憶測で物を話すべきではないって、頭の足りない平腹には分からないのかな」
「あぁ?憶測じゃねぇよ、事実だろ」


なまえが俺の服の裾を掴む力が一層強くなり、この場を離れた方が良さそうだ、と思った。人目もある。


「おい、平腹。なまえ体調悪いみてぇだし医務室行くぞ」

そう言うと、平腹はしばらく俺となまえを交互に見ていたが、「そーだな」と大人しく従った。こいつは思ったより馬鹿じゃないらしい。佐疫は笑みを浮かべてはいるが、やはり目は笑っていない。
しばらく俺となまえに視線を向けていたが、やがて「そうだね、いってらっしゃい」と言った。なまえの方をじっと見て、「お大事にね」と言って去っていた。
佐疫の姿が見えなくなると、なまえがずるずると俺に凭れ掛かって来た。「だるいからここでぶっ倒れんな」と言うと、力なく頷いたので医務室まで引っ張って行く事にした。「平腹、手ぇ貸せ」と言うと、「オレ持ってくわ!」と言って横抱にしてなまえを抱えた。「お前がそれしてるとアホみてぇだな」、と言うと「でも田噛がやった方がおもしれーと思うぜ!」とほざいた。なまえに目線を向けると、少し笑っていた。それを見て少し安堵している自分がマジでだるい。とりあえず後で平腹はぶん殴る。



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ヤンデレにしたかったのに佐疫くんがただの悪者になった
穴掘り組はいい奴っていうのを書きたかっただけになった
仲間思い的な
いい子ほどクズキャラが似合うと思ってる
木舌とすごい迷った




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