小説 | ナノ
木舌に片想い

あなたが好き。どの辺が?って聞かれると、ピンポイントであげるのはたくさありすぎて難しい。優しいところ、なんていうと薄っぺらく聞こえるけど、そんな感じ。中々上手く輪に入れないわたしを「なまえも一緒に食堂行こうよ」って優しい笑顔で引っ張ってくれるところとか。
お酒が好きだって聞いて、色々詳しくなって量も飲めるように晩酌したりしました。この前もいつものように「なまえ、一緒に食べようよ」と誘ってくれた時に、さり気なくお酒を頼んだら、「へぇ、なまえも飲めるんだね!」って言ってくれて一緒にたくさんお酒を飲めて、たくさんあなたと一緒に居れてすごく嬉しかったです。そんなこと、本人には言えないけど。

ある日のお仕事の時でした。その日は木舌さんと一緒で、わたしの心境は緊張するやら嬉しいやらで大変でした。一緒に歩いている時も、手と足が一緒に出ていたのではないかと思います。

「あ」

建物の中の事でした。わたしが緊張しながら一歩踏み出した瞬間、天井からたくさんの刃物が降って来ました。一瞬でした。避ける間もなく、呆然と上を見ていると、鈍い金属音がしました。目の前には大きな斧を持った木舌さんがいます。足下に落ちるナイフやら包丁やらを見て、木舌さんが斧で刃物を弾いてくれたんだ、と理解しました。でも、防ぎきれなかった分はわたしに覆い被さるような体勢になっていた木舌さんの腕や肩に刺さっています。
彼に怪我をさせてしまった。血の気の引く音がしました。どうしよう。

「あ、あ、」
「びっくりしたなあ。大丈夫?」
「え、」
「ん?どこか刺さった?」

いつもと全く変わらない穏やかな表情でわたしの身を気遣ってくれる木舌さん。でも、あなたの方が凄い事になっていますよ。謝ろうとしても、口をぱくぱくさせて「あ」とか「う」とかいう声しか出て来ません。木舌さんの笑顔が段々心配そうな顔になってきました。

「どうした?」
「ご、ごめんなさい」
「なにが?」
「あの、背中、と腕」
「ああ、もう半分治っちゃった。おれ、治るの早いんだよね」
「でも、あの、わたしのせいで」
「おれだって分からなかったさ。組んで仕事やってるんだし、気にする事ないよ」

言いたい事はたくさんあるのに、言葉が中々出て来ません。だってその傷は本来わたしが受けるべき物だったのに。
いつも助けてもらってる分、わたしが助けなきゃって思って今回の仕事に臨んだのに。結局わたしは何もできてなくて、どこに行っても迷惑しか掛けていません。前を向いて歩く元気もなくなって、下を向いたまま動けなくなりました。木舌さんの「おい、大丈夫?」と言う声が聞こえるけど、顔が上げられません。だってわたしはこんなにあなたの事を想っていて、それなのにこんな。
顔を上げると、ちょっと困った様な顔をしている木舌さんと目が合いました。そんな顔が見たいんじゃない、そんな顔をさせたいんじゃない。わたし、あなたの緑の瞳や優しい顔を見ているだけで嬉しくて楽しい気持ちになれる。あなたがいればわたしは、

「すき、です」

何か言おう、と思って口から出た言葉はそれでした。木舌さんがぽかんとしています。それ以上にわたしもぽかんとしていました。しばらくすると、緑色の目が上を見て下を見て右を見て、困ったように忙しなく動きました。「あ、あー」という木舌さんの声が聞こえて、わたしは取り返しの付かない事を言ってしまったんだ、と気付きました。帽子のつばを触りながら、目線を逸らして木舌さんが喋り出します。

「おれさ、損得なしに人に優しくできる程お人好しではないんだよね」

ただ聞くことしかできませんでした。「言ってる意味、分かる?」と聞かれたけど何の事だかよく分かりません。ただただ見つめ返していると、その心境を汲み取った様に木舌さんがまた悩みます。

「なまえ はさ、優しくしてくれる先輩って思ってたかも知れないけど、おれもそこまでお人好しじゃないって事。メリットは考えて動いてるつもりだよ。つまり、なまえに優しくしている事がおれにとってのメリットになるんだ」

黙っていると、木舌さんはまた、「あー」とばつが悪そうに言いながら、ぽりぽりと頭を掻いて続けます。今度はわたしの目を見て。

「好意を持たれたい相手にだからこそ優しくするって事。ここまで言えば分かるよね」

木舌さんが珍しく真面目な顔でわたしを見ます。わたしはと言うと、いっぺんに色々な事がありすぎて現状を把握しきれませんでした。何か言わなきゃ、と思い、「も、戻ったら、金箔酒、開けましょう」とよく意味の分からない事を言うと、木舌さんが「いいね」と言って笑ってくれたので、良しとします。




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -