小説 | ナノ
田噛が泥酔

湧きあがる歓声。一気コール。傍目には楽しい宴会だけど、実態は地獄絵図に近い。あの世だから地獄でもおかしくはないけど。
木舌が頭に手ぬぐいを巻いて酒瓶を持ちながら、「いっきまーす!」と叫んでいる。おまえは現世のサラリーマンか。佐疫は既に止めるのを諦めていた。冷めた視線で酒瓶から一気飲みをする木舌を見ている。多分後でこってり絞られるんだろうな。しかしその佐疫の顔も若干赤い。というかみんな相当飲んでいるので、顔が赤くないのは肋角さんくらいだった。ザルだなあ。よくよく考えてみると、わたしも相当飲んだ。立ち上がると足下がふらついた。少し夜風に当たろうと思い、大部屋を出る。後ろの方で、木舌の「よーし、お兄さんもう一本いっちゃうぞー!」という声が聞こえた。明日あいつは生きているのだろうか。


中庭のベランダへ出ると、手すりに寄りかかってぐったりと項垂れている後ろ姿が見えた。少し近付くと、それが田噛だと分かる。いつもの制服ではなく、Yシャツにパーカーといったラフな出で立ちだ。「あれ、田噛」と声を掛けたが、反応がない。更に近付いて顔を覗き込んでみると、いつもの尖った目つきが眠そうに半分閉じかけていた。顔も赤い。

「…あー、だりぃ」
「どうしたの」
「…木舌に、日本酒瓶ごと飲まされた」
「うわ」
「あとで殺す…」

そう言って頭をごつん、と手すりの柵にぶつける。これは酔ってるなあ、人の事は言えないけど、おそらくわたしよりは飲んだ筈だ。「水持って来ようか」と言うと、はっきりしない声で「うるせぇ」と言われた。この野郎。面倒見てやらないぞ。放っておこうかと思った矢先、ふいに「おまえ」と田噛に呼びかけられた。驚きながらも「なに」と言うと、手を差し出された。意味が分からず戸惑っていると、急かす様に手をひらひら動かしながら「あー」と言われたので、とりあえずその手を掴んだ。田噛がわたしの手を引いて、そのまま自分の額に当てる。熱い。

「あー…つめてぇ…」
「…氷持って来てあげるけど」
「…あれは冷たすぎる」
「よく分かんないんだけど」
「…ん」

わたしの手を額に当てたまま、もう片方の手も差し出して来たので掴むと、今度はそちらの手を頬に当てた。こちらも熱い。わたしはあんたの氷嚢じゃない。しかし当の本人からは、「つめてぇー…」と満足気な声が聞こえる。しばらく放っておくと、今度は「ぬるい」という不満の声が上がった。おまえのせいだよ。「冷えてるモンねぇのか」と言いながら半分眠りかけた顔でわたしの腕やら顔やらをぺたぺた触って来る。しばらく触ると、伏せていた顔を急に上げて、なぜかそのまま顔を近づけて来た。酒くさい。わたしも似た様なものだけど。ぐい、と田噛の両手で顔を固定されて、目線が合う。素面だったら接吻の予感をうかがわせるシチュエーションだが、相手が酔っぱらいなだけ何をされるのか全く想像が付かなくて恐ろしい。おそるおそる様子を伺っていると、ごちん、という音と共に額に衝撃を感じた。一瞬なにが起きたのか分からず、しばらくすると田噛の額がわたしの額とくっついている事に気がつく。

「…なにしてんの」
「冷たくもねぇしぬるくもねぇ…」
「当たり前じゃん」
「…眠い」

え、と思うと、そのままわたしの肩に寄りかかって寝てしまった。
どうしよう、と立ち尽くしながら考えた。「ねえ、田噛」と肩を揺すってみるが、起きる様子はない。どうしたものか。おぶさってみようと試みたところ、ふらついたので肩を組んで引っ張っていく事にした。それでも意識の無い身体というものは中々に重い。半ば引きずるようにしてみんなのいる部屋へ向かう。重い。着いたら平腹に任せよう、大丈夫かどうかは分からないけどまあなんとかなるだろう。今日は珍しいものが見れたなあ。これから何かある事に、からかってやろう。背負われている本人はそんなことも知らずに寝息を立てている。


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