小説 | ナノ
雨が降ってきた時のみなさんSS@/田噛/平腹/佐疫

●田噛

「あ」
「あー…」
「雨降って来ちゃったね」
「だりぃ…」
「どうする?走る?」
「……」
「先に戻った平腹に持って来てもらう?」
「あー…」
「……走る?」
「……」
「え、なに座り込んでるの」
「寝る」
「えっ」
「寝てあがるまで待つ」
「だって、土砂降りだよ」
「こういうのはすぐあがんだよ」
「…あがるかなぁ…」
「あがったら起こせ」
「え…」
「勝手にどっか行くんじゃねーぞ。めんどくせぇから」
「え、うん…」
「それまでお前も休んでろ」

そう言うと本当に横になって眠り込んでしまった。あがるって言ったけど、本当に大丈夫なのかなぁ。このまま3時間以上戻らなかったら、誰かが応援に来てしまう気がする。それが運悪く谷裂とかだったら、きっと始末書じゃ済まない。
なんだかなあ、と思いつつ帽子を目深に被って寝息を立てている田噛を見ると、心配するのもばからしくなって来たのでわたしも寝ることにした。固い床は多少痛いけど仕方ない。そういえば最近あまり休みがなかったな、なんて考えていると、いつの間にか眠っていた。
背中に衝撃を感じてハッとする。田噛に軽く足蹴にされて目を覚ますと、外の雨はすっかりあがっていた。「田噛凄い、予言者みたい」と言ったら「お前が馬鹿なんだよ。俺より寝てんじゃねぇよ」と言われた。口も手も足も悪いけど、目覚めた時に田噛の上着がわたしの上に被せてあったのは唯一の優しさだと思う。「Yシャツだけで寒くない?」と聞くと、「うるせぇ、ヨダレ垂れてそうだから洗って返せ」と言われた。




●平腹

「やべぇなまえ!あめ、雨!!土砂降り!」
平腹の声で外を見ると、本当に土砂降りだった。うわぁ、と思った私の心境とは反面、平腹の目はキラキラしている。嫌な予感。

「これやべぇよ!遊ぼうぜ!!」
「え、何して」
「泥投げる!?バケツに水貯めてぶっかけてもいいな!あ、競争しね!?」
「競争って…」
「走るんだよ!!」
「どこまで」
「そうだな、田噛のとこまで行って、負けた方が殴られんの!!」
「嫌だよ!しかも田噛どこにいるか分かんないし!」
「それも競争中に探すんだよ!」
「そしたら館ん中ビチャビチャじゃん!」
「それ超おもしれーな!よし、やろうぜ!まず中庭の端まで行った方が勝ちな!外行くぞ!!」
「え、ちょ、うそ」

まず、って第何ラウンドまであるんだよ。ぐいぐいと手を引っ張られ、外へ連れ出されそうになる。絶対に嫌だと思ってその辺の柱に捕まるが、引きずられる勢いであえなく引っ張られた。途中佐疫に会い、「あれ、傘いらないの?」という声が遠のいて行くのが聞こえた。いらなくない、欲しい、ていうか外に出たくない。数時間後にはきっと田噛にも肋角さんにも怒られるんだろうなあ。この空模様より憂鬱な心持ちになった。平腹の心は快晴なんだろうけど。



●佐疫


鼻先にぽつり、と水滴が当たる。何かと思って上を見ると、灰色の雲が空を覆っていた。足下を見ると、同じく灰色のコンクリートが水滴で徐々に黒くなっていく。雨だ。

「あ、降って来ちゃったね」
「そうだね、でもこれくらいだったら平気だね」

小雨だったので、そのまま歩き出そうとすると「ちょっと待って」と言って引き止められた。振り返ると、佐疫が外套を外して上着を脱いでいた。ガチャガチャと物騒な金属音がしてちょっと身構えると、それに気がついた佐疫が苦笑いをした。

「はい、これ。傘の代わりにして」

頭から何かを被せられる。手に取ってみると、佐疫の上着だった。なんという気の利いた男性だろう、恐れ多い。「いいよいいよ」と言って慌てて返そうとすると、「いいからいいから」と言われてまた頭から被せられた。香水とも違うなんだかいい匂いがする。傘の代わりだなんて気が引ける。「ごめん」と言うと、「体調崩されたら、俺が肋角さんに怒られちゃうからね」と笑顔で言われた。曇り空の中、佐疫の後ろだけ後光が射している気がした。

「今度なんかお返しするね」
「うーん、そしたら今度お茶でも付き合ってもらおうかな」
「もちろん!美味しいお茶菓子探しておくね!」
「はは、楽しみにしてるよ」


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ほのぼの組










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