小説 | ナノ
佐疫とデートっぽい事をする

「現世で情報収集へ行って来て欲しい」と肋角さんに言われたのは昨晩の事だった。情報収集って何を、と思ったが、どうやら心霊スポット関連の噂を集めて来て欲しいとの事だった。前に「あそこは出る」と現世でまことしやかに囁かれていた噂の場所で、どうやら本当に亡者がいたらしい。人間のうわさ話も馬鹿にできない。そういった事を踏まえ、大きな被害が出る前に事前に食い止めようという作戦の一端の情報収集だった。でも肋角さん、わたしが女一人で現世の心霊スポット情報収集してたらちょっと変だと思いますよ。そう言ったら、「じゃあ佐疫と行って来い」と言われた。もう一人増えれば良い、という話ではないと思うが、まあ一人よりはマシだろう。佐疫は頭も良いし、きっと何か良い作戦を考えてくれるはず。それを見越してのご指名なんて、さすが肋角さんです。

前日別々の仕事があったため、お昼前の時間に現地集合という事になった。いつもの制服ではなく、浮かない程度の私服を着て来た。折角ならオシャレな格好をしたかったが、あまりチャラチャラしているといざと言うときに動けない、と谷裂に怒られたのでパンツスタイルで落ち着いた。その分いつもの仕事では壊れそうだから絶対付けないアクセサリーを付けてみた。普通の女の子として遊びに来た気分になる。でもこれは仕事なんだから、気を抜いてはいけない。

「ごめんね、待った?」

声のした方を振り返ると、佐疫が片手をあげてこちらへ向かってきていた。落ち着いた大学生、と言ってもおかしくないような出で立ちだ。もちろん帽子は被っておらず、いつもの仕事着とも和服とも違う印象に、思わず目線が留まる。片手をあげて、待った?、なんて仕草もなんとなく様になっている。素材の良さがあるのだろう。

「ううん、さっき来たとこ」
「そう、良かった。じゃあ行こうか」

佐疫が歩き出す。「そういえば、お昼ご飯もう食べた?」と聞かれたので、まだ食べていない事を伝えると、「じゃあちょっと早めに待ち合わせしたし、ご飯食べて行こうよ」と言われた。なんか、デートみたいな会話だな…。それをナチュラルに恥ずかしげもなくやって退ける佐疫に惜しみない拍手を送りたくなった。

「そこに落ち着いたカフェがあるんだ。打ち合わせも含めて、そこでいいかな?」
「うん。佐疫、よく知ってるね」
「前に一度斬島と来たことがあるだけだよ」

いつも鍛錬に励んでいる斬島しか見たことかなかったので、休日街に繰り出す姿が中々イメージできない。きっと見兼ねた佐疫に誘われて出ていったんだろうなあ。たまには息抜きしなきゃ、とか。

「さて、どうしようか」

食後のコーヒーを飲みながら佐疫が言う。わたしも佐疫も現世に知り合いはいない。従って全く赤の他人から情報を聞き出す必要がある。わたしもコーヒーに口を付けて頭を捻る。

「本屋さんでも行ってみようか」
「え?」
「ほら、ご当地心霊スポットの雑誌とかあるかも知れないし。信憑性の高そうな物を絞り込んで行けばいい」
「わ、分かったけど、そんなんでいいのかな」
「どうして?」
「だって、なんか仕事っぽくないし。折角佐疫も同行してくれたんだから、もっと足を使った方がいいのかなって」
「いいんじゃないかな、結果が出れば過程がどうあれ同じだよ」
「そ、そっか。さすが秀才」
「さて、そろそろ行こうか」


佐疫が席を立つ。それと同様にわたしも立ち上がる。財布を出そうとすると、手で制された。「でも、」と言いかけると、「俺が行こうって言い出したんだからいいんだよ」と有無を言わさず先にお店の外へ出された。これ以上なにか言っても逆に怒られそうだったので、佐疫が出てくるのを待ち、「ごちそうさまです」と深々と頭を下げると、にこり、と微笑まれた。下手な女性よりも綺麗かも知れない。少なくともわたしよりは優雅だ。


「あ、あの映画もうやってるんだ」


佐疫の声で大きな看板が並ぶ場所に目を向けると、映画の広告がたくさん並んでいた。その内のひとつを指差して、「知ってる?」と佐疫が聞く。

「うん、あれ面白そうだよね。次の休みに見に行こうかと思ってた」
「本当?俺も行こうと思ってたんだ。折角だから一緒に行こうよ」
「え、いいけど」
「あ、一人で見る派だった?」
「いや、佐疫が一人で見る派だと思ってた」
「趣味の合わない相手だと一人で見るけど、同じ物を見たいなら一緒に行きたいな」
「じゃあ、行こっか」
「うん、予定分かったら教えて」

なんだか次の約束まで取り付けてしまった…。いいのかなあ、と思いつつ歩みを進めると、佐疫がふと手を引っ張りわたしより車道側に移動した。掴まれた手と佐疫の顔を交互に見ると、「危ないから」と言って微笑まれた。佐疫の微笑みが2回も向けられるなんて、今日はついてるのかも知れない。別に車に撥ねられても生き返るんだけどね!

「ありがとう」、と言って再び歩き出そうとするが、手は依然握られたままだった。不思議に思ってまた佐疫を見ると、再び「危ないから」と微笑まれた。本日3回目。ついてる、とかいうよりもさすがに恥ずかしくなって来る。しかし、異議をとなえる事を許さないであろう佐疫の顔を見て、開きかけた口を閉じた。今日はなんなんだろう、佐疫は肋角さんに、わたしが死なないように厳重に見張るように、とでも言われたのだろうか。頭を捻りつつ、佐疫に手を引かれながら歩き出した。





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佐疫は事前に色々仕組んでたらいい
肋角さんにも暇ですアピールしてたり


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