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※この話は某有名掲示板の話しを人物や話口調など変えたものです
詳しい改編や元ネタURLは解説の方に記載してます



こないだ、シルバーから連絡があった。
コトネが最近、時間が出来たのか懐かしくなったのか知らんが、昔の友人にちょこちょこ連絡しててシルバーも電話で話したそうだった。

……んで。
コトネと話して昔の井戸の一件を思い出して、職場でネタにして喋ったらしい。
シルバーの実家は、いわゆる「やのつく自由業」で、彼は若頭というポジション。
若いながらも自分よりはるかに年上の人間から忠誠を誓われている、なかなか仁義の厚い奴だ。
そんな人望厚いシルバーがコトネの一件を話したことで、部下のひとりに呼び出されたらしい。そいつの用件を纏めると、
「ヤバいものに憑かれてる知人が居る、坊さんも神主も霊能者もダメだった、そのコトネさんの力を借りたい。連絡を取って欲しい、詳しく教えて欲しい」
シルバーはコトネに「ソレ」ついて、井戸の一件しか知らない、つまりコトネの「ソレ」に守られた記憶しかない。
部下思いな男ということもあり、話を受けあい、ついでに他にも良く知ってる奴が居ると俺とレッド、そしてリーフを推薦したそうです。
あえてヒビキを紹介しなかったのは、彼なりの優しさだろう。
奥さんが霊障に関わるきっかけを持ってきた奴に、わざわざ旦那を紹介するはずもない。

俺とリーフは話し合って、2人つれだってシルバーとその男に会った。
彼の名前はラムダといい、見た目からしてなかなかの小悪党臭がする。
指輪の件、白い着物の件、コトネ宅の件を一通り説明し、コトネについてるものはコトネ当人にも他の人間にも制御できず、また悪霊や呪いの類は「跳ね返す」だけで祓ってくれない、周囲に被害が出るからやめておけと告げた。
どうやらラムダも「みえるひと」らしく、リーフがコトネ(幼少時 with白い着物)の写真を見せたら、即座にハッキリと表情が固まった。
「………凄いね、これ。この子マジ生きてるの?今も?こっちのナニ、山神様とかか?こんなんに狙われても大丈夫なワケ?これなら、本気でいけるかも知れねえな」
ラムダは本気になったようで、俺らがやめろと言うのにはとりあわず、しきりにコトネについてる「アレ」について尋ねてきた。
リーフは躊躇いつつも、他の「みえるひと」の意見を聞いてみたかったようで、さらにざっと説明をしていた。
みえない俺には良く判らん感覚的な言葉が多く、
「硬さは?こう、バキンていきそうな」
「そうじゃないし、寒いとかスレてる(?ずれてる?)とかもなくて。ただこう、ぞわっとするだけで、そこにあるのに何で?みたいな変な印象の」
「え、本当に?じゃあザリザリ擦ってるみたいな感じはある?」
「それもないです。するんとして、侵食もしないしできないし」
こんな感じの意味不明なやり取りの末に、ラムダは
「……俺も全く見当がつかねえ」と首を捻っていました。
その後はもう一度、「本当に止めた方がいい」と俺とAから念押ししてお開きにした。

……数日後の土曜日に、リーフから電話が来た。
コトネがこれからシルバーと会うから来ないか、と言って来たみたいだ。
『出る』家があるから、良かったらリーフと俺にも声をかけて来いとシルバーに言われてリーフに電話をよこしたと。
たまげて家を出、リーフと合流してコトネに指定された待ち合わせ場所に行くと、そこにはラムダが車で待っていた。
ラムダはニヤニヤしながら、
「悪いね。コトネさんと若(シルバーはこう呼ばれてる)は後から来るから、乗ってくれよ」
といい、車中で説明をしました。
……こいつ、シルバーに頼んでコトネに連絡とって約束したみてえだ。
「知り合いの家が“出る”から来ない?って行ったら2つ返事だった。いいご主人だな、『リーフたちと肝試し?いいよ、羽を伸ばしておいで』って子供は職場に連れてって面倒見てくれてるって。あんまり時間ないから急がねえと」

ラムダの目的地は、高級住宅街の塀に囲まれたでかい豪邸でしたが、車が止まった時には俺の横のリーフは硬直して真っ青でした。
「悪いね。大丈夫だよ、俺ら部外者だし、出入りしても手ェ出さなければね」
ラムダに促されてしぶしぶ降りたリーフは、その豪邸を見上げて、引きつった顔でラムダをみました。
「……本気で?」
「まあね。……ここんちの奥さんが、俺の幼馴染。息子が完全にイカれちゃってんだよ」
「何いってんの?その人が助かったって、周り中に散って広がるだけじゃ」
「俺も考えたし。……出られないところに押し込めてやりあってもらえばいいんだろ?勝敗つくまで、徹底的にさ」
2人が言い合ってる間にドアが開き、中から中年のおばさんが出てきて、
俺らを招き入れました。
……どうぞ、と通された部屋に居る男を見て、思わず硬直しました。
壁向いて立った横顔は白目むいて天井見上げて、唇の端が少しだけ上がって
ニヤついてるみたいで、どっか壊れたような形相でブツブツブツブツ何か呟き続けてて、
上手く言えないけど、その目つきが本気で怖い。
実はコレがウチに出る悪霊です、って言われたら信じたと思う。
俺もドン引きしたけど、リーフはもう真っ青でした。
「……もとはどこに?」
リーフが聞くと、ラムダは少し疲れたような余裕のない顔で笑って、
「そこが一番まずいんだよね。……解んないんだよ、気がついたら拾っちゃってて」
後で二人に聞いたら、そこんちの息子(カズナリってやつ)についてたのは、何だか複数の人霊が怨念をツナギにして融合したようなものだそうでした。
様子から言って、長いこと生き物でなくモノに憑いていたと解る状態で、本体と言うか依りしろと言うか、それがカズナリに憑く前に居たものがあるはず。
それが除霊するときに手がかりと言うか土台になるらしいです。
なのに、どこで取り付かれたのか解らないために除霊の手がかりがなく、霊能者に無理だと言われたそうでした。
ラムダの答えを聞いたリーフは、さらに怯えたような顔をしていました。
「……この人、大丈夫なの?何かヤっちゃったとかないの?」
「……あー。寸前まで行ったことはある、かな。今はとりあえず、ちょい前に来てくれた人が体にヨケ(?)つけて抑えてるから」
そんな感じの怖い会話の途中で、外から車の音がした。
シルバーがコトネを乗せて来たのですが、案の定と言うか怖いことにと言うか、コトネは車中で既に熟睡してた。

ラムダがシルバーからコトネを引き取り、抱えて奥の部屋へ連れ込み、床に寝かせて毛布をかける。
後からカズナリをそこんちの奥さんが連れてきて、熟睡中のコトネと空ろな目のカズナリを残して、俺らは部屋を出た。

……考えてみりゃ、眠ってる既婚女性とおかしな男を1つ部屋に入れたりして、とんでもない話だ。
だが、何故かその時は、ラムダの全く躊躇いのないテキパキした態度と、コトネは何があっても無事、と言う考えが当然のこととして頭の中にあったため、唯々諾々と従ってしまってた。

ドアを閉めると、ラムダがドアに背をつけて廊下に胡坐をかいて座る。
リーフが俺にしがみつき、奥さんが足早に廊下を戻って引っ込んで少しして。
部屋の中から、凄まじい破壊音が響き渡った。
壁か柱がぶっ壊されてるんじゃないかってくらいの轟音に混ざって、
ガシャン、パリンとガラスか茶碗が割れるような音。
俺はギョッとして、ラムダは揺れるドアに背中を押し付けて座り込んだまま動かなかった。
シルバーも、何かラムダから聞かされていたのか、落ち着かない様子ながら、あまり慌てた様子もなく。

どれだけ時間が経ったのか、誰も動かずに待ち続けて、ようやく中の音が小さくまばらになってきたとき。
直ぐ内側から誰かがゆすってるようにドアががたがたっと揺れ、鋭い、あせりまくった切迫した男の声が聞こえました。
「おい、助けてくれ!!お願いだ、助けて!開けてくれ、早く!早く!!ここを開けてくれえええっ!!」
リーフが顔をあげてラムダに向き直り、
「ねえ、もういいんじゃない?開けて出してあげようよ」
ここで俺もはっとして、「おい、さっきの人(カズナリ)、正気に返ったんじゃないか?」と
言葉を添えましたが、ラムダはぎっと俺たちを睨みつけて「まだ」と言いました。
それからさらに時間が過ぎ、中から全く音がしなくなって、やっとラムダは立ち上がりドアを開けました。
……中は、ラムダがコトネを寝かせカズナリを入れて出たときと全く変わりありませんでした。
壊れたものも動かされたものもなく、ただコトネが部屋の真ん中で大の字になって寝てるだけ。
あの破壊音を立てたと推測できるものの痕跡1つなく。
そして部屋の隅にうずくまって震えていたカズナリに、ラムダが駆け寄りました。
「おい、カズナリ。俺、わかるか」
「あ……おじちゃん?おじちゃん!!」
 目が焦点を結ぶと、カズナリは取り乱した様子で、しかし初対面の時より遥かにまともな様子で
ラムダに掴みかかりました。
「おじちゃん、化け物がいたんだ!本当だ、俺に化け物が、襲い掛かってきて俺を殺して」
「……ほいほい」


幾らか安心した様子でラムダがポンポンとカズナリの肩を叩いて宥めた。
その時、俺の横に居たリーフがふらりと傾いたのが視界に映った。
慌てて受け止めた俺に、ラムダが
「あ、ごめん。リビングに連れてったげて。ココは辛いだろ」
と言った。シルバーと一緒にリーフを運んで廊下を戻りながら、やっと気がついた。

さっきラムダと喋ってたカズナリの声。
破壊音が止む前に部屋の中から聞こえた声とは、全然違う声でした。

……その後、リーフが目を覚まして動けるようになり、眠り込んでるコトネをリーフ宅へ移した上で、ヒビキを呼び、リーフがコトネを引き渡しました。
変に疑われると嫌なので、俺もラムダもシルバーも、男は全員席を外しました。
ヒビキは怪しむ様子もなく爆睡してる妻を引き取っていきました。

「あ、また寝ちゃったの?ごめんね。小さいころから、睡眠障害っていうのかな、突然パタンと寝ちゃって目がさめないことがあって。結婚してからは年に一回もないし、病院で検査しても異常ないし、本人覚えてないけどガスだの何だの危ないものは必ず寝る前に止めてるし、子供と居る間は起きないし、倒れるとかじゃないから問題ないから、僕は気にしてなかったんだけど…。面倒かけちゃったね、連絡ありがとう。また今度みんなで飲もうよ」

リーフ曰く。
「……ガスとか火とかは絶対に大丈夫だと思う。コトネちゃんが止めなくても、必ずアレが何とかするから。赤ちゃん居るとないってのは意外。コトネちゃんが子供できてから、危ない場所に行ったり危ないもの買ったりしなくなってきたのかな」
ラムダ曰く。
「さすがに赤んぼ放置して熟睡は、コトネさんの潜在意識が拒むんじゃね?アレ、コトネさんの意識とカンペキ無関係って訳じゃないと思うよ。無意識の部分とかに食い込んでないと、寝かすのはないと思うし。コトネさんでなきゃいけない理由があるんだろーねー。赤んぼ預けるとか家族が一緒とかでないとフルで戦えないなんて不便な状況、ただの間借りならショバ替えしてるよ」

あのとき部屋の中から聞こえた声についても、「みえるひと」な2人に聞いてみた。
こちらは2人とも完全一致。
『融合してた人霊のウチの一体が、消滅の危機に瀕して自我を取り戻した』
だそうだ。
あの部屋、事前にラムダが、使える伝もコネも知識も全部使って、頼めるだけの人に頼んで、何重にも霊的に閉鎖してたんだとか。
で。
その檻の中で、コトネについてるアレと、カズナリについてたモノとが。
互いに在るだけで互いを削りあう至近距離に置かれることになり、形容し難い激烈なバトルが繰り広げられたようです。
結果は、またしても、コトネのアレの勝ちでした。

……助けてくれ、開けてくれ、と叫んでいたのは。
逃げ場のない檻の中で、コトネのアレと戦いながら2度目の死の恐怖を、味わっていた誰かの霊だったと。

衝撃でした。
生身でない、声帯を持たないとは信じられないほど、声はリアルでした。
そしてリーフが倒れたのは、霊的に比喩的に「血染めの惨殺現場」を見たためでした。
その霊たちがどうなったのか、と言う質問には2人とも答えてくれなかったし、俺も考えたくありません。コトネのアレはお払いだの浄霊だのしてくれる存在ではないと既に知っているので。

話は概ねこれで終わりです。
コトネは次の日の朝に目を覚まし、鼻歌と共に朝食と夫の弁当を作ったそうです。
カズナリは精神科へ通院しているそうですが、以前と違って会話ができて治療効果がきちんと出ることにカズナリ母は大変喜んでたそうでした。
ついでにシルバーは、ラムダから何を聞かされたか知りませんが、仕事が忙しいみたいで最近あまり連絡が取れなくなってきてる。

最後に、その「融合した複数の人霊」これが一番、この話の嫌なところだが。
「恐らく半世紀以上は前、だけど100年は経ってない」で、「全員、両手の爪が剥がされてた」らしい。
それ以上はリーフもラムダも説明してくれなかったし、俺も正直聞きたくねえ。
どこでどんな目にあった誰だとしても、判れば気分悪くなるだけだろうからな。



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