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※この話は某有名掲示板の話しを人物や話口調など変えたものです
詳しい改編や元ネタURLは解説の方に記載してます



コトネのソレの話しはまだある。
これはそのホウエン旅行の事件よりも前か後かは定かではないが、コトネの元彼氏(ケンタ)に聞いた小話だ。

ケンタは一度、コトネを実家に連れて行ったそうです。
そしたら、今までの歴代彼女には親切で礼儀正しかったケンタの姉が、コトネに対しては非常に失礼だったそうな。
無茶な因縁をつけて頭からお茶をかけたり、口汚く罵ったり、 失礼というよりイジメのレベル。
とにかく酷くイライラした感じで、ついにケンタは姉を台所へ呼び、 コトネを部屋へ残して、ケンタ母とケンタとで責めたんだそうだ。
そしたらケンタ姉の言い分が、
「裏のお墓の仏様が、みんなして狂ったように暴れて怖がってる!あんな女が家の中に居るだけで私だって嫌だ!!」
と、こうだったそうだ。
ケンタもケンタ母も呆れて相手にせず、あまりにケンタ姉が言い張るので近い内に心療内科へ
連れて行こうかと考えつつケンタは話を切り上げてコトネのところへ戻った。
そしたら、なんと、コトネは座布団枕に寝てたんだと。
幾ら起こしても起きないコトネにもケンタ母は呆れ返り、 しかもケンタ姉は追い出せ追い出せとうるさいので、とりあえずケンタに告げてコトネを連れ出させ、帰らせた。

ここまでなら単なる女同士のイビリなんだが、その後があった。
……ケンタ姉が言った通り、ケンタ家の裏には広めの墓地(その向こうに寺も)があり、 ケンタがコトネを車に乗せて走り去った次の日、その墓地で大騒ぎがあったそうだ。
一夜にして倒れた墓石、数十個。
真っ二つになったのやらヒビが入ったのやら、削り取られたように表面の文字が消されてたものまであり、幾つもの墓石が偉いことになっていたとか。
その後、ケンタが実家付近の噂をケンタ母から聞いたところでは、 何でも幾つかの家が何度墓を直しても倒れる。一軒の家が霊能者を頼んだところ、
「ダメですね。何度お墓を直しても、もうご先祖様を呼び戻して安らかに眠らせることは出来ません。……お気の毒ですが、今後の埋葬には別の場所を探された方が良いかもしれません」
と言われたとか。

……コトネの「ソレ」と墓地の仏様がモメたんだろうか。
ってか、ケンタ姉はみえるひとだったのか。
「ソレ」ともめていなくなっちゃった仏様はどこにいったんだろう?と その話を聞いた後でリーフに尋ねてみたら、
「考えたくないんで、勘弁してください。てか、凄い気の毒ですよね。マイホームで寛いでたらお隣に原発が移動してきたみたいな状態だったと思いますよ、その人たちにしたら」
……確かに考えたくない事態だな、と思う。



ケンタは俺らの遊び仲間じゃなかったんで、ホウエン旅行の一件には絡んでないし、直接聞いた不思議な話しももうひとつだけしかない。
それにコトネとは卒業直前あたりで就職のことで行き違って別れたと聞いてる。
ひょっとしたら今も、コトネを出入りしてるものの存在は知らないかもしれねえ。
知らぬが仏、かもしれないけど。

せっかくなのでケンタ関連の、もうひとつの件。
これは俺が実際に自分の危機を感じた話。

学生時代、ケンタから貰った指輪をコトネが仲間内で披露してたことがあった。
金銀組み合わせの指輪で、仲間内の女子の言では結構いいものらしかったが、 リーフが凄い微妙な様子だった。
これはホウエン旅行の一件の後だったので、俺は後でこそっと「あの指輪なんかある?」と リーフに聞きました。
「……うん……まずいかも。でも、どうしよう。グリーンさん、お祓いできる人とか知らないですよね?」
俺はリーフの他に「みえるひと」の本物は1人も知らなかったので、そう言うと、 リーフは閉口した様子で。
彼女は、自分がみえるひとだが、経験則で危ないものを避けてきただけで、 霊能者などの知り合いはいないらしいです。
「……それに、コトネちゃんも貸してくれないですよね……お祓いとかするところにコトネちゃん本人を連れて行ったら、まずコトネちゃんのアレと揉めるかもしれないですし……」
かと言って、指輪が霊的に危ないなどといったら、コトネのことだから それこそ面白がって肌身離さず持ち歩くのが、俺にも想像できた。
「……ま、コトネはアレがいるから大丈夫なんじゃねーの?」
と俺は言ったが、リーフは複雑な顔で「ん……ていうか……ちょっと……」と
言い、それで会話は終わりました。

次の日、大学内でリーフが事故って怪我した。
捨ててあった何かのガラスでサックリ切ったとかで大学の保健管理センターへ運ばれたリーフは、その時一緒に居た同じ科の奴に、自分の荷物は最寄の講義室に置いといてくれ、後で取りに行くから、と言ったらしい。
で、事故の後にそいつと俺が出くわして話した。
財布とか貴重品はさすがに放置じゃまずくないか?と言うことになり、 俺が預かっといてやるってことにした。

講義室に行くと、誰もいなくてリーフの鞄がぽんと椅子の上においてあった。
見覚えはあったが、他の奴のだったらまずいし、失礼して中を開けて、何か氏名の解るものを確認しようとした。

そしたら。
財布の入ったポケットの中に、一緒に、小さなビニール袋に入った指輪が見えた。
前日、コトネが皆に見せまくってたのとそっくりのが。
え、何で?これコトネの指輪か?どうしてリーフが?と思ったが、 単に同じもの買ったのかもしれないし、まあひょっとしたら、リーフが思い切って無断拝借してお祓いに持ち込むつもりだったのかもしれないとも考え、 とにかく財布の中の免許証を確認して、鞄を持って部屋を出ようとしたら、後ろから「にゃー」って声がした。
振り向いたら、窓枠のとこに灰色っぽい猫がいた。
にゃあ、ってもう一度鳴いた猫がひょいっと窓から外へ下りてから少しして、
気がついた。
……さっき居なかったよな?猫。それでここ、4階だよな?外に木の枝とかあったっけ?
慌てて鞄を置いて窓に駆け寄って見ると、窓の外には何もない。
木の枝が張り出してもいないし、建物の外側のどこにも猫はいないし、 勿論落ちて死んでたりもしない。
……4階位なら飛び降りて逃げられるモンなのか?と思いつつ戻ってリーフの鞄を手に持って、
仰天した。絶対さっきまでなかった派手な裂き傷が鞄についてた。
駄目押しにもう一度、足元で「にゃー」って声がするに至って、ようやく俺は、
リーフがしきりに気にしてた例の指輪が俺の持ってる鞄の中にあるんだ、という事実に
気がついた。
「………」
ぞく、と背筋が寒くなったところへ、また「にゃー」さらにガリッて音が続いた。
見下ろすと、俺の靴ヒモが結び目のとこで何箇所か裂けてた。もちろん猫は居ない。
にゃー。にゃー。にゃー。
かなりの至近距離に聞こえるその声は、何だか段々と嫌な感じになってきてた。
冷や汗をかき始めた俺の周りをうろうろしてた鳴き声に、ぼそっと暗い感じの
人間の声が重なった。
『……なんか、死んじゃえ。死ねばいいのに』
エコーをかけたような変な声だった。
「……!」
硬直した俺は、咄嗟に大急ぎで携帯電話を出して、速攻で電話をかけた。
プルル、プルル、と呼び出し音が鳴る間も、足元で見えない猫が鳴いてた。
靴や鞄がカリカリ音を立てて、ちらっと見下ろすと床にも何だか、 傷が増えてきてるような気がした。
ガリッと衝撃があって足首に痛みが走ったのと同時くらいに、電話が繋がった。
『はーい、もしもしグリーンさん?』
「コトネか!?あのさ、俺だけど、えっとリーフのこと聞いた?」
有難いことに、コトネは学内にいた。急いリーフの怪我の件を説明し、 荷物を預かってくれと頼むと、コトネは快諾した。
電話を切った俺は、リーフの鞄を持ってダッシュしてコトネと待ち合わせた場所へ向かった。
エンドレスに足元から聞こえる猫の鳴き声に混ざって、ぽそ、ぽそ、と 『死んじゃえ』とか『死ねばいい』とか呟く女の声がし続けた。

建物を出たあたりで、しゅっ、と足の間を通り抜けるような感触がして、 足がもつれて思いっきりこけて、止めてあった自転車に突っ込んだ。
「うわーグリーンさん!?大丈夫ですか?」
待ち合わせしてた自販機の所から、大声で言いながらコトネが駆け寄ってきた。
「グリーンさん、手!それに足も血が出てるじゃないですか!」
コトネが騒ぎながら俺に手を貸してくれ、荷物を持ってくれて、気がついたら 猫の声も変な女の声もしなくなってた。

ただ、後で確認したら、やっぱり足の傷は自転車の金具で切ったんじゃなく 爪で引っかかれた傷でした。

リーフの怪我もそれほど酷くはなく、鞄の中にあった指輪は、彼女がコトネから 借りたものでした。
同じようなのがどうしても欲しいから、お店で見せて「こう言うのが欲しい」と 言うのに見本にしたい、と言って借りたそうで。
ただ、俺が鞄をコトネに預けた話をするとリーフは
「……あ、そうですか」
と 言ったきりで、猫と女の声についても何も説明してくれなかった。
……今になって俺がこの話を思い出したのは、最近リーフがコトネ宅を訪問したときの件があったからだ。
その時に聞いた話は、また日を改めて語るけど、そのコトネの家の話、そして白い衣装と神社はなしも聞き、その2件でなんとなく俺もコトネのソレの概要がわかった気がしている。
「コトネちゃんの中にいるものは、コトネちゃんを守るだけで、悪霊退治をするわけではない。 周囲の人がとばっちりを受けても祟られても、コトネちゃんが無事なら何もしてくれない」
と言うことを知って急に気になったのが、この一件だった。
俺はこの後、コトネと指輪の話をしたことがある。
コトネはその時、リーフから返却されたその指輪をはめてた。
「リーフが同じようなの欲しがってたけど、見つからなかったんだよね。あれ、ケンタが親戚の子に選んで買ってきてもらったんだって」
で。
指輪を選んでくれた、その女の子が、ケンタの在学中に亡くなってるんだ。
ケンタが葬儀に出たと言っていたのは、確か、この一件の少し後だった。
当時は、俺が女の声を聞いたときには生きてたわけだから無関係だと思ってた。
あの一件は、コトネの手元に指輪が戻ってコトネには何も起こらなかった事で 片付いたつもりでいた。

でも、今考えてみるとどうしても気になって、先日、改めてリーフに聞いてみた。
リーフは物凄く迷ってたが、やっぱり黙ってるのがしんどかったようで、 しつこく聞いたら最後には話してくれた。
クロだった。
「……その親戚の子、ケンタくんのことが好きだったんだと思います。どこで呪いの方法を見つけたのか知らないけど、実際に猫を殺して本格的に呪いかけるくらい、コトネちゃんが憎かったんじゃないかなあ」
俺が聞いたのは、やっぱりその子の声らしかった。ケンタから指輪を貰う女に対して、 死んじゃえ、と呟いて猫を殺した時の声なんだろう、と俺は思った。

そしてリーフが心配してたのは、コトネが呪われることじゃなかった。
コトネの中にいるものの性質をかなり正確に把握してたリーフは、動物を殺して形を整えて 行われた呪いの、「返り」を気にしてたんだった。
「……わたしもグリーンさんも大怪我じゃなかったじゃないですか。たぶん、呪い自体には、人を殺すような力は無かったんだと思います、だけど…」
コトネにはアレが居たから。
コトネをターゲットに真っ直ぐ飛ばされたものを、アレが真っ直ぐ打ち返したときに、 「加速がついちゃった」んだと、思う……

リーフは、それ以外は何も言わなかった。
多分、当時のリーフは、指輪をどこか霊能者のところへ持ち込んで、 呪いを外してもらおうと考えてたんだと思う。
正直、リーフと話してから、少し気持ちの整理がつかなくて、混乱してる。
俺がコトネを呼んでリーフの鞄を渡さなかったら、ケンタの親戚の子は死ななかったんだろうか。
コトネにリーフの鞄を預けたと言ったとき、リーフが取り戻そうとしなかったのは、 もう間に合わないと思ったのか、怪我して怖くなったのか、俺は解らない。
いずれにせよ、もう何年も前の話だ。

コトネは何も悪くないんだろう。普通に彼氏から貰った指輪を喜んでただけで。
少し大雑把だけどイイ子で、同じものを探すのに貸してと言ったリーフに、快く指輪を貸し出してくれるような奴だったわけで。
でも、俺が悪いんだとも思いたくない。
リーフも俺も巻き込まれただけじゃないか、って気持ちが消えない。
同時に、猫を殺して呪いをかけた女の子は確かにゾッとするけど、
相手がコトネでなかったら、死人は出なかった話だったんだと思わずに居られない。
リーフが複雑な顔で「何もできないんだよね」って繰り返す気持ちが初めてまともに解った気がした。





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