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※この話は某有名掲示板の話しを元に創作したもので、一部引用も含みます
  元ネタURLは解説の方に記載してます


------------ キリトリ ------------




博士の話しはこうだった。
病院でパニックに落ち入ったボクは、すぐに寺へと運ばれたらしい。
実際はさっきグリーンに聞いたようにリーフの方へアイツの興味をそらすことで助けられたのだが、彼女の希望なのかそこには一切触れられなかった。
トージョーの滝の上にあるこの寺は、リーフの知り合いの寺らしく、古くは小学生の教科書に乗るような有名な宗派らしい。
詳しくは聞かせてくれなかったが、「見える」リーフが幼いころ霊障にあったときに、助けてくれたのがこの寺の住職さんで、それから世話になっているとのこと。
残念なことにその住職さんはいま、他の霊障を解決するべくホウエンまで行っているらしく、ボクの事象にすぐに対処できないそうだ。
住職がいないにも関わらず寺を提供してもらったのは、よくわからないが、この場所は生きてる人間の力が強くなる所らしく、ここに来れば負担が軽くなると考えたかららしい。
リーフ自身は「見える」だけで、実際には祓ったりする力はないから、頼み込んで場所を提供してもらったというわけだ。

そして驚くことに、ボクは実に5日間眠りこんでいたらしい。
途中点滴などで水分や栄養を補給していたと言われた、全く気付かなかったけど。
それで今日の晩ご飯、ボクだけおかゆだったのか。
思っていた以上に食べれなかったのは、胃が受け付けなかったせいだろう。

「エンジュのマツバが手伝ってくれることになったらしくてな、住職は3日後に帰ってくる」
「それで、ボクは助かるんですか?」
「…わからん。わし自身、あったことはあるが、世話になったことはないからな」
「先生は、きっと助けてくれるよ。大丈夫だよ」

先生とはその住職のことだ。リーフや他の世話になった人は皆そう呼ぶらしい。
ボクも先生と呼ぶ事にする。
話しを聞いて番最初に思った事は、少なくともあと3日はアイツに怯えながら過ごさなければいけないということに対する恐怖だった。
でも、それはすぐになくなる。

リーフと、目があったのだ。
たった5日でげっそりとやつれたリーフ。
ボクの代わりにアイツの興味を引いてくれていたせいだろう。
ボクに余計な気をかけさせないためなのか、いつも以上に華やかに化粧が施されていて、目の下の隈は隠されていた。
それでも化粧の上からわかるほど黒ずんでいて、なにより痩せた頬は化粧ではごまかせない。
さっきの映像がフラッシュバックする。
アイツはリーフのことも、梟のようにちりちりと首を動かしながら、覗きこんでいたのだろうか。
リーフはそれを、ただただボクのために耐えていてくれたのだろう。
「くるしくて苦手」と言っていたハイネックの服を着ているのは、その下にある首の跡を隠すためなのは、容易に想像できた。
対面してはじめて、リーフはボクが思っていた以上に負担を背負ってくれていたことを知った。

「ありがとう…。ありがとう、みんな」

ボクのために、ありがとう。
ボクが勝手にやって、勝手にこんな事態を招いて、それなのにみんな身を削って助けようとしてくれて。
大方マツバの件も、グリーンが頼んでくれたのだろう。
一刻もはやく先生にボクが見てもらえるように。
自分のことばかりな自身が情けない。
これが解決したら、絶対に恩返ししようと心に決めた。
一生かけても返しきれないくらいの恩だけど。

結論として、アイツが現れてから、1週間の時が過ぎていた。
まだたった1週間しか経ってないのに驚いた、だって、もう何年もアイツに悩まされてる気がしてるんだ。
ちなみに、グリーンの部屋は、ボクの母さんが片づけてくれたらしい。
グリーンの部屋を開けた時、何かを燻したような臭いと、部屋の真ん中辺りの床に小さな虫が集まってたらしい。
怖すぎたらしく、その日はなにもしないで帰って来たんだってさ。
翌日、仕方無いんで、意を決してまた部屋を開けたら、臭いは残ってたけど虫は消えてたらしい。
母には申し訳ないが、ボクが見なくて良かった。たぶん発狂してたと思う。

「でも、ここにいてもレッドくんの所に、アレは来てしまいました。それも、周りじゃなくて本体が」

しばらくして、リーフが口を開いた。
おっとりとして、いつもやわらかい雰囲気のリーフとは打って変わって、その口調と表情は真剣で険しい。

「周りと本体って?」
「なんじゃ、グリーンから聞いてなかったのか」
「わり、一気に全部話したらぱにくると思ってさ」

そこでボクは、周りと本体についてより詳しく話しを聞いた。
ボクに憑いているアイツが、籠女であるという話しは前に書いた通りだが、実際にボクに憑いているものをリーフがとき、そこには女の姿はなく、数人の子供たちだと言っていたのを覚えているだろうか。
まさに、あれが周り。言うまでもなく本体は籠女だ。
リーフの見解によると、どうも籠女が近くにいない時は、周りに子供たちが現れてぐるぐると歌いながら囲むことがあるらしい。
表現が上手く説明できないのが申し訳ないが、かごめ遊びの時にまんなかで蹲っている状態、だとリーフは言っていた。
籠女の姿が見えないのは近くにいないだけなのか、隠れているだけなのかはわからないらしい。
それくらい強いものだ、と言っていた。
子供たちは籠女に憑り殺されただか、取り込まれただかしたモノだろう、というのが結論だった。
子供たちの霊自体には特に害はなく、前者の場合は助けを求めている可能性が高く、後者の場合は籠女がボクを自分と同じ目に合わせて楽しみたいだけかもしれない、と言っていた。
どちらにせよ、実害が無いからといって、たちがわるいことに変りはなかった。

「首、治ったでしょ?それは、レッドくんの力がアイツに勝ってる証拠だよ。だから、アイツはここに現れることはできるけど、レッドくんに対して何もできないってのは間違いないと思う」

最終的に下された結論はそれだった。
たしかに、首はもうすっかり完治しており、痕は残ったが、他には若干のかゆみと痛みを感じる程度で、我慢できるようなレベルだった。
激痛もアイツが現れた時だけだったし、前のように傷やあのにきびのようなものも何も無かった。
熱なんてもうすっかり下がっていて、体力は回復している。

「…先生が返ってくるまでの3日間、辛いと思うけど、がんばってくれる?」

ボクの代わりに地獄のような5日間を過ごしてくれたリーフに対して、弱音が吐けるはずもない。
強がりでもなんでもなく、ボクは自然に頷いた。

けれど、嫌な事が少しの間をおいて続けて起きるのって、もうどうしようも無いくらい落ち込むもので。
気持ちの整理が着き始めると嫌な事が起きるってのは、正直かなりツライ。
ましてやこの時、ボクはこれから3日の間アイツと向き合わなきゃいけないことがわかっていて。
…恐怖しかなかった。
リーフやグリーン、そしてみんながいなければ、気がおかしくなっていたと思う。

一通り話しを終えた後も、みんなはボクを気遣ってか、ずっと部屋にいてくれた。
寝る場所はさっきいた寺の方らしいが、ひとりは怖いだろうとグリーンとリーフが付き添ってくれることになった。
風呂もグリーンと入った。(リーフはナナミさんと入ってた。)
夜の9時を過ぎた頃、母さんと博士、そしてナナミさんは明日の仕事のためにマサラへと帰った。
子供みたいだと笑われるかもしれないが、正直母さんがそばにいてくれることにすごく安心していたために、帰ると聞いて急に怖くなった。
今にして思えば、先生に対する心付けをするためにも、ボクを養っていくためにも、仕事に行かなければいけなかったんだろうけれど、この時はそんなこと考える余裕なんて全くなくて、ただ悲しかったのを覚えている。



3人でぴったりとくっつけて並んだ布団に、豆電球で明かりを付けて、修学旅行みたいだ。
こうして一緒にいるのはいつ以来だろう。

そこでふと、ピカチュウたちの様子が気になった。
ボクの友達にして家族、戦友。
ピカチュウたちがいれば、どんなことでも乗り越えられる。

「へ?あ、あぁ…。うーん、連れてこれないことはないんだけど…」

尋ねれば、リーフは随分と歯切れの悪い反応をした。
しかしそれもすぐに「でも、会いたいよね…」という台詞に変る。

「実はね、ポケモンってそういう人間の恨みとかの、…邪念っていうのかな?そういうのに、すごく敏感なの。レッドくんといるのは、その中でもすごく強いから、きっとピカチュウたちは一緒にいるのがツライと思うの。それで、ずっとわたしがポケモンセンターの方で預かってたんだけど…」

右隣に寝ていたリーフが、ごろりとこちらに体を向ける。

「もう、ピカチュウたちもレッドくんと一緒にいれないことに、不安を感じているみたいだし。…明日、連れて来てみるね」
「いいの?」
「うん。だけど、ピカチュウたちがつらそうだったら、すぐに連れて帰るよ?いい?」
「うん、ありがとう」

ここでやっと、前にリーフが言った「まだ無理」という意味がわかった。
たぶん、あの時のボクに会っていたら、ピカチュウたちはよほどツライ思いをしなければならなかったんだろう。
いや、今だってその可能性はないわけじゃないんだけど。
でも、前よりはずっとましなはずだ。
自分にそう言い聞かせて、明日へ思いを馳せることにした。

その後も一通り雑談していると、いよいよ、夜も更けて行った。
でも、まだ眠れない。
目を閉じるのが怖いんだ。
次に目を開けた時、もしかしたら目の前にアイツがいるんじゃないか。
あの梟のような動きで、ボクを覗きこんでるんじゃないか。
そう考えると止まらなくって、眠れなくなる。
それはグリーンもリーフも同じなようで、両隣ではまだ起きている気配があった。
無遠慮に「ねぇ」と話しかければ、2人とも「なに」と返事をして、そこからまた他愛ない雑談が始まる。
同じ恐怖を、共有していた、

「大丈夫だ」

ふと、グリーンがそう呟いた。
何の脈絡もなく、唐突に。
でも、ボクとリーフはすぐに意味を理解した。
自分も怖いはずなのに、ほんの数時間前死ぬほどこわい体験をしたばかりなのに、ボクたちのことを気遣ってくれるグリーンに感服した。
…言葉には絶対出してやらないけど。
でも、なんとなくそのグリーンの一言ですっかり安心したボクたちは、素直に睡魔へと身を委ねたのだ。



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