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※この話は某有名掲示板の話しを元に創作したもので、一部引用も含みます
  元ネタURLは解説の方に記載してます


------------ キリトリ ------------



嫌な臭いで目が覚めた。
くさい。
誰かが嘔吐したような、そんな匂いだ。

「…なんだ?」

のそりと体を置きあがらせれば、…いた。
あいつが。
5メートルくらい前で、じっと正座してこちらを見ている。
相変わらず白い着物を身につけていた。
突然のことに、ひゅっと不規則な呼吸をしながら、じっと固まる。
逃げなきゃ、早く、あいつがいないとこに。
そう思うけれど、体は完全に硬直していて動かない。
それどころか、助けを呼ぶための声すら出ない。
どうしよう、どうしよう、とパニックに陥っていた。

「…レッド!」

ガラリ、と引き戸が乱暴に開けられる。
勢いのいいその音に反応して、体の硬直が解けた。
反射的に視線をそちらに動かせば、やけに真剣な顔をしたグリーンがいた。

「ぐ、りーん、そこ…!」

情けないことに、同い年の幼馴染を見て安心したのか、声が出るようになった。
助けてくれという想いをこめながら、アイツのいるほうへ指を指す。
しかし、そこにはもうアイツはいなかった。
ほんの一瞬、グリーンの方へ視線を向けた時にどこかへいったらしい。
ひどくそれに安心した自分がいた。

それでも、まだ本当に辺りにいないか確認する余裕がなくて、駆け寄ってくれたグリーンに頼んだけど。
情けないとか、この時、そんな感情は全くなくて、ただひたすら怖かった。
だって、アイツがいつも来るときには、悪寒ってやつか?やたらと嫌な寒気がするんだ。
それはさっき目が覚めてからも例外じゃなくて、恐ろしいことに、その寒気は、今もまだ続いている。
姿が見えなくなっただけで、まだ近くにいるんだ、って何故かそう確信できて、ボクは一人で怯えていた。

「大丈夫、何も変わったとこはないぜ」

グリーンはどうやら、この寒気を感じないらしい。
ボクを安心させるためか、にこりと笑って、ボクに向かい合うように座った。
ちょっと癪な話だが、この時ボクは、そのグリーンの笑顔にやたらと安心したのを覚えてる。

でも、その安心はすぐに吹き飛ぶことになった。

向かいで胡坐をかいているグリーンのすぐ真横。
そこに、アイツが正座していた。 膝の上に手を置き、上半身だけを伸ばしてグリーンの顔を覗き込んでいる。
グリーンの顔とアイツの顔の間には拳一つ分くらいの隙間しかなかった。
不思議そうに、顔を斜めにして、梟のように小刻みに顔を動かしながら、聞き取れないがぼそぼそと呟きながらグリーンの顔を覗き込んでいた。
今思うとグリーンに何かを囁いていたのかもしれない。

途端、グリーンの表情が固まる。
アイツが来ている事がわかったのだろうか、けれど、それにしては落ち着いている気がする。

「そういやこないだ、タケシがさ…」

たぶん、グリーン自身悪寒か何かは感じていたんだろう。
でも見えていなかったらしい。
その嫌な気分を吹き飛ばすかのように、勤めて明るく知人の与太話を始めた。
ボクはというと、やっぱり何も言えず、動けなかった。
申し訳ないがアイツを直視するなんてもうボクにはできなくて、アイツがグリーンの方を見ているのをいいことに、うつむいて視線を下に落とした。
グリーンごめん。
だから、彼の話に相槌打つ余裕なんかなく、ただただ息を飲んで、下を向いていると、だんだんグリーンの話が途切れ途切れになってきた。
ボクの反応がないことを不審がって、とかそんなんじゃない。
嫌な雰囲気と、少しずつおかしくなってゆく話し方が異様に耳に響いた。
視線の端に嫌でも入るアイツは、相変わらずグリーンの顔を覗き込んでいるようだった。

そういえば、アイツを見て余裕がなくなり、気付かなかったけれど、首がやけに痛い。
痒さを通り越して、明らかに痛みを感じていた。
痛さを堪えるため歯を食いしばっていたら、ついに、グリーンの話しが止まった。

ろくに話の内容は聞いていなかった(というか聞いてる余裕なんてなかった)んだが、どうもおかしい。

たぶん話はまだ途中で、終わったにしては区切りが悪い終り方だったし、仮に終わったとしても、ボクに対しても何も声をかけてこないのは変だ。
何より、首の痛みは一向に引かず、寧ろ増しているのだ。
寒気は余計に強くなっていた。

絶対に見てはいけない。
そう分かっていたのに、ボクは、顔をあげてしまった。
自分のせいでグリーンに危険がせまっているかもしれない、その申し訳なさもあったし。

グリーンは…少し俯き気味に、目線を下に落としたまま瞬きもせず、焦点は合っていない。
少し顔が笑っていたように見えた。 時々小さく頷いていた。
「オレは違います、違うんです」と、しきりに繰り返していたように思う。
ボクは、瞬きも忘れ凝視していた。
すると不意に、アイツの首が動きを止めた。
次の瞬間、ぐるん、と顔をボクに向けた。
ボクは…慌てて目をギュッと閉じ、ひたすら南無阿弥陀仏と心の中で唱えていた。
ボクの顔の間近で、アイツが梟のように顔を動かしている光景が瞼に浮かんできた。
恐ろしかった。

どれくらいの時間が経ったのだろう。
急にすっと、寒気が消えた。
首はまだジンジンと疼いていたが、さっきまでの痛みは引いて行ったように思う。
それでも目を開けるのは怖くて、ガタガタと震えながらただ耐えるように目を瞑っていた。

「レッドくん、グリーンくん」

やさしい、あったかい、声が聞こえた。
リーフだ。
この時のボクたちは、本当に情けなかったと思う。
彼女が来てくれたことに安心があふれて、
2人で泣いた。
赤ん坊みたいにリーフにすがりながら、大きな声をあげて泣いた。
止まらなかった。
そんなボクたちをあやすように、リーフは何も文句言わずただ抱きしめてくれた。
ほんと、もうリーフには頭上がんない。

一通り泣きわめいて、おちついた頃、ボクたちは3人で笑い合った。
この時はアイツの存在なんて微塵もなかった。
自然に笑顔が出てきたのは、しばらくぶりだったと思う。

一息ついて、ボクたちは部屋を出る。
意識が無い間に運ばれていたから、ここがどこだか正直よくわかっていなかったが、どうやら寺のような所らしい。
ボクがいたのは寺の1番大きな一室だったようで、そういえば、仏像やら仏壇やらが飾られていたのを思い出す。
あんまり部屋の様子を見て回る余裕なんてなかったから、はっきりとは覚えていないけれど、ずいぶん立派なものだったように思う。
リーフとグリーンに連れられて、1度寺を出たあと、ボクは母堂(とリーフは呼んでいた)と呼ばれる隣接している屋敷に移動した。
そこには母さんやオーキド博士、それにナナミさんまで来ていた。

「レッド、随分とやつれておるなあ」

開口一番、オーキド博士はそう言った。
あんな体験したらやつれもする、と心の中で言い返す。

「何にしても目が覚めて良かったわ。ささ、ごはんにしましょう」

ナナミさんがそういって、奥の部屋に案内してくれた。
そこには、母さんとナナミさんが作ってくれたのだろう、手料理の数々が並んでいた。
なんか見てるだけで涙があふれてきた。
ほんと、ここ数日で涙もろくなったな、ボク。

案内された席につくと、オーキド博士の声かけで食事がはじまった。
こうやってみんなで食べるのはすごく久しぶりで、あったかい。
そういえば、食事すら久しぶりな気がする。
最後に食べたのは、倒れた時に運ばれた病院食だ。

「…おいしい」

また、涙がこぼれた。
でもそれを茶化すような人は誰もいなくて、余計に心に響いた。
「久しぶりの食事だから」と渡されたおかゆを口に運びながら、日常の幸せというものを噛みしめた。

「…さて、レッド。グリーンから大雑把な話は聞いたじゃろうが、詳しい話を知りたいじゃろ」

食事を終えて、母さんがいれたお茶をすすっていると、オーキド博士がそう切り出した。
お腹がいっぱいだったボクは、突然アイツの存在を思い出す。
キョロキョロと辺りを伺うようにアイツを探した。
急に、怖くなった。

「そう怯えるでない。ここは大丈夫じゃ。その話しも含めていま教えてやるから、まあ待て」

ズズッとお茶をすう博士。
それでも怯えるボクの手を、隣に座っていたリーフがそっと握ってくれた。

「さて、まずはお前さんが病院で倒れたところから、順を追って説明するとするかの」


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