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ちょっと先に説明しておきたいことがある。
実は、シロガネ山の麓にあった寺はトージョーの滝の山頂、つまりボクたちが数日間過ごしたあの場所に移されることになった。
というのも、多くの悪霊に魅入られたたくさんの人が何年も同じ場所にとどまるのは良い事ではないらしく、先生の一周忌を期に場所が移動されることになったんだとか。
かわりにシロガネ山の麓の建物はポケモンセンターに改築され、リーフがそこに就任することになったらしい。
これは後で聞いた話しだが、その宗派の人とかなりもめながらも、シロガネ山の山頂で暮らすボクのためにはポケモンセンターが必要だ、とリーフをはじめ、多くの人が骨を折ってくれたらしい。
まぁ、先生の最期の願いだったというのが1番の理由だったらしいが。
少し話しがずれたので、戻そう。
先生の一周忌はその新しく本山として認定された寺で行われることになった。
それでボクは山を下りてマサラにいたのである。

一周忌は、滞りなく終わった。
思っていた以上に多くの参列者来ていたそれは、生前の先生がいかに慕われていたかを改めて知った。

「レッドくん、ちょっといい?」
「………?」

お教も終わり出された茶菓子をつついていたら、リーフから声をかけられた。
隣には見たことのないおばあさん。

「あんたか、籠女さまに魅入られた子ってのは」
「……アンタ、誰」

思わず怪訝な表情になる。
それが見て取れたのか、おばあさんは鼻で小さく笑ってボクを一瞥した。

「ふん、生意気そうなガキだね。まあいい。お前さん、兄さんに面倒みてもらってたんだろ」
「………」
「あ、えっとね。まずは紹介するね。この人、先生の妹さんでキワメさんっていうの」
「兄さんから手紙を貰ったんだよ、生前ね。アンタのことが気がかりだと言ってた」
「先生が?」
「そうさね。…私は兄さんみたいにソッチ方面での能力なんてのはないから分からないけどねえ。まぁ。早い話あんた自身を鍛えて欲しいと頼まれたのさ」
「言ってる意味がわかんない。アンタ、本当に先生の妹さんなわけ?」
「信じる信じないはアンタ次第だけどねえ。ま、アタシは兄さんの最期の頼みだからってだけだから。好きにしたらいいさ」

初対面でいきなり生意気そうだと言われれば良い思いはしない。
ボクの中でのこのおばあさんの信頼度は限りなく低かった。

「おいレッド!リーフ!」

その時、後ろから呼びかけられた。グリーンだ。
なんだよ、うるさいな。
いまグリーンにかまってあげる暇ないんだけど。

「…っと、キワメさん!ごぶさたしてます」
「おや、トキワの坊やじゃないか。なんだ、この子と知り合いだったのかい」
「腐れ縁みたいなもんです。キワメさんはどうしてここに?」
「アタシかい?あたしゃ兄さんの一周忌ってだけさ。ついでに、兄さんの遺言にそってこのガキを鍛えてやりにね」
「兄さん…?え、じゃあ先生の…!」
「妹さ。ま、この歳になればそうたいして変わらんがね。…さて。どうするんだいそこの赤いの」
「……アンタが先生の妹ってのは信じてあげるけど、鍛えるって何。それを説明してくれないとわからない」
「はぁ。近頃のガキは本当に、年上に対して口のきき方も知らないのかね。まぁいい、あんた、リザードン、フシギバナ、カメックスを持ってるね」
「…うん」
「そのポケモンたちに究極の技を伝授してやるよ。籠女さまにも対抗できるように、強く鍛えてやる」
「………」

胡散臭い。
正直な感想だった。
究極の技って一体なんだ、それを覚えたら本当に太刀打ちできるようになるの…?

「まだ疑ってるね。まあいいさ。…アンタたち、籠女さまの伝承について調べたんだろ?それがナナシマから帰来しているってことも。そこで編み出された究極の技だ、なんでそんな技が編み出されたか、考えればわかるだろうに」
「…籠女さまへの対抗手段か」
「トキワの坊やは感がいいね。そうさね、ポケモンとトレーナーが互いを守るために編み出された技だ。覚えていて損はないと思うよ」

どうする?、とこちらを覗きこむキワメさん。
チラリと両隣を見れば、リーフとグリーンがこくりと頷いた。
受けてみろ、と言っているらしい。
…どうせ、旅に出るくらいしかプランがなかったんだ。
究極の技とやらを覚えてみるのもわるくない。

「いいよ、アンタに付きあってあげる」
「ふん、可愛くないガキだね。まあいいさ、ちょうど私も究極の技を誰かに伝授したかったんだ。弟子を取るのも悪くない」
「でも、どこでその技を習得する訓練するんですか?」
「そんなの決まっているだろう」

どこで一息溜めたキワメさんは、ニヤリと笑った。

「ナナシマさ」

あぁ、ロケット団の本拠地に乗り込む方がどんなに楽だっただろうか。






いくら先生のおかげであれから3年間の間、アイツの姿を見ていないとはいっても、その発祥の地に来るのにはやはりそれ相応の覚悟がいる。
だって、きっといざって時はアイツの方の力が強くなってしまうんだろうし、そもそもこのキワメさんを信じていいのかもまだよく分かってないし、だいたい究極の技なんて胡散臭いことこの上ないし。
一周忌を終えた1か月後、シーギャロップに乗り込んだボク(となぜかリーフとグリーン)(本当この2人暇だと思う)は2の島に来ていた。
キワメさんが住んでいる島、そして、先生が生まれ育った島だ。

「キワメばあさんならこの岬の一番奥に住んでるよ」
「ありがとうございます」

船頭さんにそう教えてもらって、ボクたちは岬の先を目指した。
見る限りでも結構な距離がある。
なるほど、こんな所に住んでいるなんてアクティブなおばあさんだなあ。

「どーだリーフ、大丈夫そうか?」
「うん。籠女さまの発祥の地だなんて聞いてたから心配だったけど、全然嫌な感じがしないよ。レッドくんは?」
「ボクも平気。むしろシロガネ山にいるみたいにすっきりしてる」
「おーし、んじゃあ行くか!」

島の雰囲気に一安心して、もう1度岬を仰ぎ見る。
リザードンで飛んでいけばすぐなんだろうけど、キワメさんからは「ポケモンの力を使わずに自力で来い」とのお達しを受けてる。
まあ、グリーンもリーフも嬉しそうに歩いてるし別にいいけど。

「それにしても空気が綺麗だね」
「うん」
「ちょっとしたハイキングの気分だな」
「ふふ、グリーンくんってば」
「…にしても最強の技かぁ。籠女さまに対抗するために編み出されたっつってたけど、どんだけすごい技なんだろうな!」
「わからない。でも、ピカチュウの電撃は効いているようには見えなかった」
「ピカチュウたちの怪我もなかなか治らなかったし…」
「お前のピカチュウでも太刀打ちできないって、相当だよな」
「修行っていっていたし、やっぱり厳しいのかなあ」
「うん。でも、とにかく何か手立てがあるなら今は対抗手段を身につけたいし」
「そーだな。…3年見てないっつても、アレだもんな」
「……うん」

本当に体に刻みこまれた恐怖というのは、時間が解決してくれるものではないらしい。
いまでも当時のことを思い出しては、悪夢に魘され恐怖に怯える。
自分と友人、そしてポケモンたちが苦しむ恐ろしさは、今もまだ忘れられない。

ドォォォオオオン!

「きゃあっ!」
「リーフっ」
「行け、ピカチュウ!」

突然だった。
3人で歩いていたら、突然に地響きと共に何かからの攻撃を受けた。
ポケモントレーナーとしての反射なのか、ピカチュウをボールから出して臨戦態勢を整える。
いまのはポケモンからの攻撃だ、チリチリと漕げた香りからして、炎タイプの攻撃か。

ビリビリとした高圧の電気が、ピカチュウの頬袋に蓄えられた。


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