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※この話は某有名掲示板の話しを元に創作したもので、一部引用も含みます
  元ネタURLは解説の方に記載してます


------------ キリトリ ------------



その後、ボクは先生の言い付けを守って、毎月一度先生を訪ねた。
最初の一年は毎月、次の一年は三か月に一度。
グリーンもリーフもボクを気にかけてくれていて、何も無くても家まで来ることが前より増えたし、先生のところに行く前と帰ってきた時には、必ず連絡が来た。

アイツを見てから二年が経った頃、先生から、
「もう心配いらなそうですね。レッドさん、これからはたまに顔出せばいいですよ。でも、変な事しちゃだめですからね」
って言ってもらえた。

本当に終ったのか…ボクには分からない。
先生はその三ヶ月後、他界されてしまった。
敬愛すべき先生、もっと多くの事を教えて欲しかった。
ただ、今は終ったと思いたい。

先生のお葬式から二ヶ月が経った。
寂しさと、大切な人を亡くした喪失感も薄れ始め、ボクは日常に戻っていた。
慌ただしい毎日の隙間に、ふとあの頃を思い出す時がある。
あまりにも日常からかけ離れ過ぎていて、本当に起きた事だったのか分からなくこともある。
こんな話を誰かにするわけもなく、またする必要もなく、ただ毎日を懸命に生きてくだけだ。

リーフから一通の手紙が来たのは、そんなごくごく当たり前の日常の中だった。
封を切ると、リーフからの手紙と、もう一つ手紙が出てきた。
リーフの手紙には、ボクへの言葉と共にこう書いてあった。
『先生から渡されていた手紙です。四十九日も終わりましたので、先生との約束通りレッドくんにお渡しします。』

先生の手紙。
今となってはそこに書かれている言葉の真偽が確かめられないし、
そのままで書く事はボクには憚られるので、崩して書く。

レッドさんへ
ご無沙汰しています。あれから大分経ちましたね。
もう大丈夫ですか?怖い思いをしてなければいいのだけど…。
いけませんね、年をとると回りくどくなってしまいます。
今日は、レッドさんに謝りたくてお手紙を書きました。
でも悪い事をした訳じゃ無いんですよ。
あの時はしょうがなかったんです。でも…、ごめんなさい。

あの日、レッドさんがウチに来た時、私は本当は凄く怖かったのです。
だってレッドさんが連れていたのは、とてもじゃ無いけど私の手に負えなかったから。
だけどレッドさん、怯えてたでしょう?
だから私が怖がってはいけないと、そう思いました。
本当の事を言うと、いくら手を差し伸べても見向きもされないって事もあります。
あの時は、運が良かったのです。

レッドさん、本山での生活はどうでしたでしょうか? 少しでも気は紛れたましたか?
レッドさんと会う度に、私がまだ駄目いけませんって言ったでしょう?覚えますか?
このまま帰ったら酷い事になるって思ったのです。
だから、レッドさんみたいな若い子には退屈だとは分かってましたが、帰らせられなかった。
私、毎日お祈りしたのですが、中々何処かへ行ってくれなくて。

でも、もう大丈夫なはずです。近くにいなくなったみたいだから。
でもねレッドさん、もし…もしもまた辛い思いをしたら、すぐに本山に行きなさい。
あそこなら多分レッドさんの方が強くなれるから、中々手を出せないはずですよ。

最後にね、ちゃんと教えておかないといけない事があります。
あまりにも辛かったら、仏様に身を委ねなさい。
もう辛い事しか無くなってしまった時には、心を決めなさい。
決してレッドさんを死なせたい訳じゃないのですよ。
でもね、もしもまだ終っていないとしたら、レッドさんにとっては辛い時間が終らないって事です。

レッドさんも本山で何人もお会いしたでしょう?
本当に悪いモノというのは、ゆっくりと時間をかけて苦しめます。決して終らせません。
苦しんでる姿を見て、ニンマリとほくそ笑みたいのですね。
悔しいけれど、私達の力が及ばなくて、目の前で苦しんでいても何もしてあげられない事もあります。
あの方達も助けてあげたいけれど…、どうにも出来ない事が多くて…。
何とかレッドさんだけは助けたくて手を尽くしたんだけど、正直自信が持てません。
気配は感じないし、いなくなったとも思うけど、まだ安心しては駄目です。
安心して気を弛めるのを待っているかも知れないから。
いいですか?レッドさん。決して安心しきっては駄目ですよ。
いつも気を付けて、怪しい場所には近付かず、余計な事はしないでおきなさい。
私を信じて。お願いしますね?

嘘ばかりついてごめんなさい。
信じてって言う方が虫が良すぎるのは分かっています。
それでも、最後まで仏様にお願いしていた事は信じてね。
レッドさんが健やかに毎日を過ごせるよう、いつも祈ってます。



読みながら、手紙を持つ手が震えているのが分かる。
気持ちの悪い汗もかいている。鼓動が早まる一方だ。
一体、どうすればいい?まだ…、終っていないのか?
急にアイツが何処かから見ているような気がしてきた。
もう、逃れられないんじゃないか?
もしかしたら、隠れてただけで、その気になればいつでもボクの目の前に現れる事が出来るんじゃないか?
一度疑い始めたらもうどうしようもない。全てが疑わしく思えてくる。
先生は、ひょっとしたらアイツに苦しめられたんじゃないか?
だから、こんな手紙を遺してくれたんじゃないか?
結局…、何も変わっていないんじゃないか?
あれからグリーンの様子がおかしいのは、あの時アイツに何か囁かれていたからじゃないのか?
ボクとは違うもっと直接的な事を言われて…、おかしくなったんじゃないか?
先生は、ボクを心配させないように嘘をついてくれたけど、
『嘘をつかなければならないほど』の事だったのか…。
結局、それが分かってるから、先生は最後まで心配してたんじゃないのか?
疑えば疑うほど混乱してくる。どうしたらいいのかまるで分からない。



結局、ボクの出した結論はシロガネ山へ帰ることだった。
先生の言葉を信じられなかったわけじゃない。
けれど、このままの生活を続けて行く余裕はもうボクには残っていなかった。
ボクが向かったのはシロガネ山はシロガネ山でも、麓にある寺ではなくて、その山頂。
そこでピカチュウたちと鍛えながら、本当に強いポケモントレーナーを待つことにした。
きっとそれが、トレーナーとしてのボクにとっても、アイツの影響のことを考えても、1番の手段だと思ったからだ。
反対する人はいなかった。
ボクの気持ちを配慮してくれたのかはわからない。
ただ、先生からの手紙を受け取ってから、また様子が可笑しくなっていたことにみんな気付いてたんだろう。

「お前の帰ってくる場所はいつでもココにあるからな」

そう言ってくれたグリーンたちの言葉に、救われた思いがした。



先生が亡くなってから、実に1年が経過した。
シロガネ山での生活は思っていた以上に悪くはない。
グリーンやリーフも一週間分の食料を持って、週1で麓まで来てくれていたから寂しくもなかった。
むしろ、毎日強い野生のポケモンたちとバトルも出来て、トレーナー冥利に尽きる生活だった。

来週、先生の一周忌があるために、久しぶりにマサラへと帰ることにした。
山に籠っていたせいか、それとも本当にどこかへ行ってしまったのか、アイツが影をみせることはこの1年間1度もなかったし。

大丈夫だと思った。

…思っていた。


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