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※この話は某有名掲示板の話しを元に創作したもので、一部引用も含みます
  元ネタURLは解説の方に記載してます


------------ キリトリ ------------



そして、3日目が来た。
先生が帰ってくる日だ。

結局あれから、ピカチュウたちの体調は一向によくならなかった。
だいぶ精神的には落ち着いたものの、やっぱりポケモンたちのことが心配で寝付けなかった。
運がいいのか悪いのか、あれからアイツが現れることはなかったけれど。
壊れて行く日常に、感覚がマヒしていた。

「先生がいらっしゃいました!」

バタバタと足音を響かせながら、リーフが声をあげた。
反射的に正座になる。

「おやおや、これは…」

ガラガラと引き戸を開けて入ってきた「先生」は、想像していた人とは全く逸していた。
見た目は、いかにも住職といった風貌で、綺麗にそり上げられた頭がまぶしい。
歳は想像していた以上にとっているようだが、正確な年齢は読めない。
鍛えているのか意外にもがっしりとした体格で、おだやかそうな見た目とは裏腹にがっしりしている。
オーキド博士よりも上のようだから、70歳は超えていると思うけれど…。

「怖かったでしょう。もう、大丈夫ですよ」

先生は、ボクをみて、にこりと笑うとそういった。
この言葉に、どれだけ救われただろう。
「もう大丈夫」という言葉が、こんなにも救われる一言だったなんて思わなかった。
余命宣告された患者さんが、名医に出会った時ってきっとこんな気持ちだ。
もう、あんな怖い思いをしなくていいんだ。
みんなにツライ経験をさせることもないんだ。
本当に、救われた気がしたんだ。

「レッドくんと言いましたね。少し、2人きりでお話しましょうか。リーフくんとグリーンくんは、ちょっと部屋の外で待っていなさい。私が良いというまで入って来てはいけませんよ」

ガッチリと鍛えられた男らしい見た目に似合わない、やさしい話し方。
それがなぜか余計にボクを安心させた。

「さて…」

部屋の真ん中で正座して、膝を合わせるように座る。
先生は少し困ったようにまゆげを八の字にした。

「どうしますかね」
「………」
「レッドくんは怖いですか?」
「…うん」
「そうですね。このままってわけには、行かないでしょうね」

沈黙が訪れた。
その沈黙がなんだか不安で、そわそわと足を動かす。
そんなボクの様子をみて、先生は「こちらの話しですから、気にしなくていいですよ」と言った。

その時。

「ドォ〜ドォルルシッテ」
「ドォ〜ドォルル」
「チルシッテ」

…何が何だか解らなかった。(ホントに訳解んないので取り敢えずそのまま書く)

「ドォ〜。 シッテドォ〜シッテ」

左耳に鸚鵡か鸚哥みたいな甲高くて抑揚の無い声が聞こえてきた。
それが「ドーシテ」と繰り返していると理解するまで少し時間がかかった。
ボクは先生の目を見ていたし、先生はボクの目を見ていた。
ただ優しくかった先生の顔は無表情になっているように見えた…。

左側の視界には何かいるってのは分かってた。 チラチラと見えちゃうから。
よせば良いのに、左を向いてしまった。首から生暖かい血が流れてるのを感じながら。

アイツが立ってた。 体をくの字に曲げて、ボクの顔を覗き込んでいた。
くどいけど…訳が解らなかった。起きてることを認められなかった。
此処は寺なのに、目の前には先生がいるのに…何でなんで何で…。
一週間前に、見たまんまだった。 アイツの顔が目の前にあった。
梟のように小刻みに顔を動かしながらボクを不思議そうに覗き込んでいた。

「ドォシッテ? ドォシッテ? ドォシッテ? ドォシッテ?」

鸚鵡のような声でずっと質問され続けた。
きっと…グリーンもあの時、同じようにこの声を聞いていたんだろう。
ボクと同じ言葉を囁かれていたのかは解らないが…。
ボクは…息する事を忘れてしまって目と口を大きく開いたままだった。
いや、息が上手く出来なかったって方が 正しいな。
たまに「コヒュッ」って感じで息を吸い込む事に失敗してた気がするし。
そうこうしているうちに、アイツが手を動かして顔に貼り付けてあるお札みたいなのをゆっくりめくり始めたんだ。

見ちゃ駄目だ!! 絶対駄目だって分かってるし逃げたかったんだけど動けないんだよ!!
もう顎の辺りが見えてしまいそうなくらいまで来ていた。
心の中では「それ以上めくるな…!」って叫んでるのに口からは「ァ…ァカハッ…」みたいな情けない息しか出ないんだ。
あ、もうやばい!! ヤバい!ヤバい!ってところで

「パンッ!!」

って。その音でボクは跳び上がった。 例えとか誇張でもなく"跳び上がった"。心臓が破裂するかと思った。 正座してたから体が倒れそうになりながら後に振り向いてすぐ走り出した。
何か考えてた訳じゃなく体が勝手に動いたんだ。でも慣れない正座のせいで足が痺れてまともに走れなかった。
痺れて足が縺れた事とあんまりにも前を見てないせいで頭から壁に突っ込んだがちっとも痛くなかった。
額から血がだらだら出てたのに…、それだけテンパって周りが見えてなかったって事かな。

血が目に入って何も見えない。手をブン回して出口を探した。けど的外れの方ばっかり探してたみたい。

「まだいけません!」

いきなり先生が大きい声を出した。
障子の向こうにいるリーフやグリーンに言ったのか、ボクに言ったのか分からなかった。
分からなかったがその声はボクの動きを止めるには十分だった。
ビクってなってその場で硬直。またもや頭の中では物凄い回転で事態を把握しようとしていた。
というか、把握なんて出来る筈もなく、先生の言うことに従っただけなんだけど。
ボクの動きが止まり、仏間に入ろうとするリーフとグリーンの動きが止まった事を確認するかのように少しの間を置いてから先生が話始めた。

「レッドくん、すみませんね。怖かったでしょう。もう大丈夫だからこっちに戻って来てください」
「あ…」
「2人とも、大丈夫ですからもう少し待ってて下さいね」

障子(襖だったかも)の向こうからしきりに何か言ってのは聞こえてたけど覚えてない。
血を拭いながら先生の前に戻ると手拭いを貸してくれた。
お香なのかしんないけどいい匂いがしたな。
ここに来てやっとあの音は先生が手を叩いた音だって気付いた。
(質問出来る余裕は無かったけど)

「レッドくん、見えましたね?聞こえたましたか?」

「見えた…どーして?って繰り返してた」

この時にはもう先生の顔はいつもの優しい顔になってたんだ。
ボクも今度はゆっくりと、出来るだけ落ち着いて答える事だけに集中した。
まぁ…考えるのを諦めたんだけど。

「そうですね。どうして?って聞いてました。何だと思いますか?」

さっぱり分からなかった。考えようなんて思わなかったし。

「……分からない」
「レッドくんは、さっきの怖いですか?」
「そりゃ、怖いです…」
「何が怖いのですか?」
「…、普通じゃないし、幽霊だし…」

ここらへんでボクの脳は思考能力の限界を越えてた。
先生が何が言いたいのかさっぱりだった。

「でも何もされてないでしょう?」
「いや…首から血が出たし、それにピカチュウやグリーンにも何かした。明らかに普通じゃない…」
「そうですね。けれど、それ以外は無いですよね」
「…」
「難しいですね」
「あの、よく分からなくて…すいません」
「いいんですよ」

先生は、ボクにも分かるように話してくれた。諭すっていった方がいいかもしれない。
まず、アイツは幽霊とかお化けって呼ばれるもので間違いない。
じゃあ所謂悪霊ってヤツかって言うとそう言いきっていいか先生には難しいらしかった。
明らかにタチが悪い部類に入るらしいけど、先生には悪意は感じられなかったって言っていた。
ボクに起きた事は何なのかに対してはこう答えた。

「悪気は無くても強すぎるとこうなっちゃうことがあるのです。あの人は、ずっと寂しかったのでしょう。話したい、触れたい、見て欲しい、気付いて気付いてーって、ずっと思ってたのかもしれません」

籠女唄の女なのに?
ボク後ろの少年だと思いこんで、いろいろとしてきたんじゃないのか?
恨みつらみをボクにぶつけようとしてるんじゃないのか?

「レッドくんは、分からないかもしれないけど暖かいんですよ。色んな人によく思われてて、それがきっと"いいな〜。優しそうだな〜"って思ったんでしょうね。だから自分に気付いてくれた事が嬉しくて仕方なかったんだろうと思います」
「 ………」
「ですが、レッドくんはあの人と比べるととてもそういう部分は弱いのでしょう。だから、近くに居るだけでも怖くなってしまって、体が反応してしまうのです」

先生は、まるで子供に話すようにゆっくりと、難しい言葉を使わないように話してくれた。



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