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※この話は某有名掲示板の話しを元に創作したもので、一部引用も含みます
  元ネタURLは解説の方に記載してます


------------ キリトリ ------------



ゆっくりと、後ろを振り向く。
姿はなかった。
でも、いつのまにか消えていたはずの寒気が戻ってきた。
首が熱い。
あぁ、そこにいるんだ。

「…あ、み、んな」

振り向いたことで視界に明確に捉えられたボロボロの体の相棒たち。
わずか一瞬で、なんで。
頭の中にいろんな疑問が飛び交うなか、現実に移るその様子がまだ理解できないでいた。
過去にここまでひどく傷ついた姿を見たことがあっただろうか。
地にひれ伏す愛獣たちは、体に似合わない小さく浅い呼吸を繰り返していた。

「…ピ、ヂュゥッ!」

ドン、とボクの横をすり抜けて、電撃が走る。
再び後ろを振り向けば、立ちあがるのも苦しそうな傷だらけの体で、なおも主であるボクを守ろうと必至で威嚇するピカチュウがいた。
しかし立っていることすら限界なのだろう、すぐにトン、と体を地面に付けた。
それでも必至で睨みつけるようにボクの後ろから視線だけは逸らさない。
その姿を見て、やっと、ボクの体が動いた。

「戻れ!」

リザードンたちをボールに戻し、ピカチュウの所へとかけよる。
ピカチュウ…!
近くで見たピカチュウの体は、予想していたよりもひどかった。
体中ボロボロで、いたるところから血が出ている。
右足は折れているのか、変な角度に曲がっていた。
ごめん、ごめん…!
ボクが守らなきゃいけないのに…!

そっと抱き上げたるだけでも、傷が痛むのか苦しそうに声を漏らすピカチュウ。

「休んでてくれ」

嫌だ、とでも訴えるように声をあげた彼を、無理矢理ボールに収めた。
これ以上、ピカチュウに無理をさせられない。
きっとこのまま外に出していれば、自分の体を壊してでもボクを守ろうとするだろう。
そんなこと、させられなかった。

幸いなことに、体は動いた。必至だったからかもしれない。
とにかく寒気も収まっていて、首の熱も落ち着いている。

でもこの時のボクにはそんなことはどうでもよくて、ただ愛獣たちを助けなきゃと、ひたすら走って寺へと戻った。
もしかしたら感じなかっただけで、まだそこに、アイツはいたのかもしれない。
でも、そんなことを気にしていられないくらい、ボクは必至だったのだ。



ピカチュウたちはすぐにリーフに手当てしてもらった。
必至の形相で駆けこんできたボクを見るなり、グリーンとリーフが「大丈夫!?」と駆け寄ってくれた。
どうもボクは、自分で思っていた以上に混乱していたらしい。

「お願い、助けて」

そういってポケモンたちの入ったボールを指し出して、気を失ってしまった。



次に目が覚めた時には、もう次の太陽があがっていた。
隣にはグリーンとリーフがいて、たぶん寄り添っていてくれたんだろう。
快眠、というわけではないものの、あの悪夢を見なくてよかった。

2人を起こさないように辺りを伺うが、ボールは見当たらない。
もう、みんなの治療は終わったんだろうか。

「…レッドくん?」
「起こした?」
「ううん、へいき」

ボクの物音に目が覚めてしまったのか。
まだ眠そうに瞼をこすりながら、リーフが起き上る。

「また、嫌な夢みたの…?」

不安げに尋ねるリーフの頭をぽんぽんと撫でる。
大丈夫だよ、という意味を込めて。
それがリーフにも伝わったのか、「よかった」と微笑みながら呟いた彼女は、そっとボクの手を握ってくれた。

「…そういえば、レッドくんに話さなきゃいけないことがあるの」

なんとなく、その先は彼女が発する前にわかっていて。
握られていた手に、力を込めてしまった。

「ピカチュウたちは、あの後すぐトキワのポケモンセンターに連れてったよ。治療受けてる」
「うん」
「ポケモンによる攻撃じゃなかったみたいでね、キズ薬とかが全く効かなくて…。ごめんね、正直、どうなるかわかんない」
「…そっか」

リーフの口から紡がれた言葉は、絶望そのものに近かった。
アイツに対面したどんな恐怖よりも深く、強く、ボクを絶望させた。
まぎれもなく、ボクのせいだ。

「お見舞い、来たいだろうけど…。たぶん、いまはレッドくんが近くにいないほうがいいと思うの」
「………」
「ピカチュウたち、意識が戻るたびに臨戦態勢に入って、最初、大変でね?…夜には落ち着いたんだけど、混乱してるみたいで…」

ごめんね。そう言ってリーフは口をつぐんだ。
アイツは、ポケモンたちすら、ボクから奪うのか。

ぶつけようのない怒りと、ピカチュウたちを怪我させてしまったことへの申し訳なさと、いろんな感情が渦巻く。
たぶん、アイツをしっかりと目にしていたであろうピカチュウたち。
いやむしろ、ボクよりもはっきりとアイツを感じていたのかもしれない。
怖かっただろうに、恐ろしかっただろうに。
何もしてあがられなかった、守ることすらできなかった。
…ボクが、彼らのトレーナーなのに。

「レッドくんが悪いんじゃないよ、あんまり気負わないほうが…」
「…リーフに何が分かるんだよ」
「ッ…」
「自分のポケモンを持たないリーフに、実際に目の前でポケモンたちが傷つく姿を見てないリーフに、一体何が分かるっていうんだよ。気負わない方がいい?気負わないでいられるわけないだろ!偉そうな口を効くなよ!」

見るからに落ち込んでいたんだろう
ボクを気遣って、そう声をかけてくれたリーフだったのに、ボクはただ八つ当たりをした。
本当に、人間としての器が小さかったと思う。

「おいレッド…!」

怒鳴り声に反応して、グリーンが飛び起きてボクを抑えた。
がっしりと肩を掴まれ、脱力する。

「…目の前で、ピカチュウが、仲間が、ボロボロに…壊れてんだ。…ボクが守ってあげなきゃいけないのに、なのに、ボクのせいで、みんな…」
「………」
「…なんで、みんなまで巻き込まれなきゃいけないんだよ。…畜生、畜生ぉ…!」

もう、精神が限界だった。



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