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※この話は某有名掲示板の話しを元に創作したもので、一部引用も含みます
  元ネタURLは解説の方に記載してます


------------ キリトリ ------------



結論としてこの3日間は地獄だった。
まぁ、何もないはずもないよね。

最初の日、博士たちから話を聞いた夜だ。
ボクはまた、あのかごめ遊びの夢を見ていた。
子供たちの無邪気に歌う声が、逆に恐ろしく、けれど目覚めたいのに目覚められない。

前と違ったのは、今日は第三者みたいな場所から傍観してるんじゃなくて、
ボクもその子供たちのうちの1人だったことだ。
腰まである長い髪をひとつに結った女性、その人の周りをぐるぐると回る。
うずくまっているせいで顔は見れないけれど、この女性があの籠女さまなのだろう、とどこかで冷静に考えながら、それでもボクはかごめ遊びを続けていた。

唄が、終わりに近づく。

「後ろの少年だーぁれ」

ぴたり、と曲と同時に動きを止めた。
嫌なのに、止まりたくないのに、ボクは、体を止めた。
……女の人の真後ろで。

唄が終わり、沈黙が訪れる。
物音ひとつたたない状況の中で、ボクの唾を飲む音だけがやたら大きく聞こえた。
そんな状態が10秒ほど続いた後、ぴくり、と女性が動く。
心臓がバクバクと脈打っている、逃げなきゃ、まずい、はやく、ここから…!
頭の中では色んなこと考えてるのに、体は全く動かない。
女性が、ゆっくり、ゆっくり、顔をこちらに向けようと動かしている。
やめて、見ないで。
ボクじゃない、ボクが悪いんじゃない、違う…!

「…ッ!はぁ、はぁ、はぁっ!」
「レッド!?」
「目が覚めた?」

そこで、目が覚めた。
反射的に体を起こすと、横でグリーンとリーフが心配そうにこちらを見ていた。
どうやらうなされていたらしい。
びっしょりとかいた汗のせいで、髪やジャージが体にくっついて気持ち悪い。
なんで、なんでまだ出て来るんだよ。
ここなら大丈夫じゃないのかよ、なんだよさっきの、なんでボクが…!
正直、パニックになっていたんだと思う。
体も歯も、ガタガタと震えている。

「わたし、おしぼり取ってくるね」

見かねたリーフが部屋を出る。
そんな彼女に配慮する余裕もなく、ボクはなおも荒い息を必至で整えながら、キョロキョロと辺りを見回した。
…大丈夫、アイツはいない。
そこではじめて、やっと深く一息ついた。
グリーンは何も言わずに、ボクが落ち着くのを待ってくれていた。

「レッド、ほら水。とりあえず無理にでも飲んどけ」

少し息が落ち着いた頃、グリーンからペットボトルを手渡される。
そこではじめて、異様なほどの喉の渇きに襲われた。
あれだけ汗をかけば当然だ、脱水症状を起こす手前だったみたい。

ゴクゴクと音を立てて水を飲んだ。
シンと体にしみわたるそれを感じながら、生きてるんだと実感した。

「レッドくん、大丈夫?」

そこでリーフが戻って来て、温めたおしぼりとタオルを渡してくれた。
その頃には少し余裕も出てきていて、あったかいおしぼりが無償にありがたかったのを覚えてる。
けれどその日は結局、もう1度眠ることなんて出来なくて、グリーンもリーフも一晩中付き合ってくれた。



次の日の朝、リーフはポケモンセンターへと向かった。

「グリーン、ジムはいいの?」
「別に、言っただろ。オレ様は最強だから、挑戦者なんて滅多に来ねえの」

後で知った話しだけれど、この時はジムトレーナーのみんなが本当に奮闘してくれたらしい。
挑戦者には少し申し訳ないけれど、まぁ、ジムトレたちに勝てない様じゃグリーンには勝てないし。

「ピカチュウ!みんな!」
「ピッカ!」

昼過ぎには、リーフがピカチュウたちを連れて帰って来てくれた。
ボクの姿を見た瞬間、飛びついてきてくれるピカチュウ。
頬ずりをして全身でボクとの再会を「うれしい」と表現してくれた。
はやく他のみんなにも会いたくて、いても経ってもいられず、バタバタと走って外へ出る。

「出て来い、みんなっ!」

リザードン、カメックス、フシギバナ、カビゴン、ラプラス。
大きな体の仲間たちが、我先にとボクへのしかかってきた。
ちょっとまってカビゴン、ボク死んじゃう。

こんなに無邪気に喜んでくれる相棒たちの姿に、本当に心が安らいだと思う。
可愛い可愛い、ボクの友達。
リーフにおそわりながらブラッシングしたり、おやつをあげたり、そして、グリーンと本気でバトルしたり(もちろん勝った)、本当に「恐怖」というものを忘れて過ごした。

「グォ…」

グリーンがボクに負けたポケモン達をリーフに治療してもらうべく、寺へと戻った時のことだった。
ふと、リザードンが小さく炎を吐いた。
何かに警戒する時の癖だ。
ほぼ同時にピカチュウが頬袋に電気を溜める。
少し遅れてカメックスがポンプを構え、フシギバナたちも身構えた。
トレーナーとしての癖なのか、ボクも帽子をキュッと被りなおした。
その頃にはリザードンは羽をばさりとひろげ、宙へと舞った。
それは完全な警戒態勢で、いつ何がくるのかとあたりを注意する。
その、刹那だった。
ぞわりと背筋が凍る。
ボクはこの悪寒の正体を知っている。
…アイツだ、アイツが、来たんだ。
そう理解したとたん、全身が恐怖で凍った。
いやな汗がたらりと垂れ、脈がドクドクと激しくなったのがわかった。

まだ太陽は傾いてはいるものの、十分にその存在を証明している。
夜にしか出ないとか、どうもそういうのではないらしい。

「ヂュウウウウウッ!!」

何の指示も出さないうちに、ピカチュウがボクの肩から飛び出し、電撃を放った。
容赦ない攻撃はボクのわずか数メートル先の地面を削る。
それに続くようにリザードンたちもボクを庇うかのように戦闘態勢を取った。

その様子を見た瞬間、ハッとした。
ボクがピカチュウたちを守らなくては。
トレーナーのボクが怯えてどうするんだ、しっかりしろ。

「ごめん、みんな。サンキュ」

小さくそう呟いて、もう1度帽子を触る。
昨日までのただただ恐怖におびえるボクはそこにはなく、相棒たちと共にソレをしっかりと見据えていた。

「ピカチュウ、かみなり」
「ピカッ!」

ドォン
地響きが響くほどの、本気の電撃。
ピカチュウたちには見えているのだろうか、同じ場所へと攻撃がなされた。

「リザードン、カメックス、フシギバナ、やれ」

三位一体、3匹がそれぞれ火炎放射・ハイドロポンプ・リーフストームを繰り出す。
やっぱり、攻撃は同じ場所へと行われた。

「………」

辺りに砂埃が舞った。
砂塵の中でもじっと前を見据えていると、一か所、ゆらゆらと他の場所とは明らかに逸している場所があった。
攻撃が効いたのか、それとも。
様子を伺いながらも右手をあげ、継ぐ攻撃を仕掛けるべく、ラプラスとカビゴンに準備をさせる。

「チャアッ!」
「なッ…!」

言葉に返る余裕なんてなかった。
それはふいの一瞬で。
ばん、と。
何かに払いのけられたかのように、ピカチュウの体が後方へと吹き飛ぶ。

「…ピカチュウっ!」

これもトレーナーとしての反射だったのか。
飛ばされたピカチュウを追うように振り向いた、その視界の端で。。
大型ポケモンのリザードン達が、いともたやすく薙ぎ払われた。

「あ、あ…」

後ろに、まだいる。
その恐怖に、さっきまで動いていた体が止まった。
上手く声すら出せず、それどころか後ろに振り向くことすら出来ず。
はるか数メートル先に飛ばされ倒れた黄色い相方を目にしながら、ボクは、ただ、立ち尽くしていた。


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