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黄ばんだ紙に、キレイな字で文字が綴られている。

―夢を見た。少女が四肢を杭に打たれ、目を母親に…。これがあの本に書いてあった禊の儀式というものなのだろうか?ならばあの夢は現実にあった過去の儀式の様子なのか…?あの子をあんな目に合わせるわけにはいかない―

「……だって」
「あの本って、この本だよね…。夢で儀式の様子を見たってこと?」
「あの子って誰だ?」

良くみればその紙は、どこからか破かれた後があった。
わざわざ挟んだと見て間違いないだろう。

「執筆者本人がこの紙を挟んだのか?」
「どうしてわざわざそんなことするの?」
「だよな。…でも、そうじゃないとしたら、一体だれがするんだよ、そんなこと」

またもや答えに行き詰まる。

「これ以上考えていても、ヒントが少なすぎて何も分からない。もう少しこの部屋を捜索して、次の部屋に行こう。他のメモも見つかるかもしれないし」
「了解」

しかし、3人の努力虚しく、その部屋から新たなメモらしきものどころか、脱出のヒントになりそうなものは見当たらなかった。
これ以上この部屋を探しても意味がないと判断した3人は、隣の部屋へと移る。



*



中には、テレビがあった。
画面は砂嵐。
ザーザーという耳障りな音が脳に響く。
扉を開けたまま部屋には入らず、その異様な光景に動けなくなる3人。
違和感が、あった。

「なぁ、なんで電源入ってんだよ…?」

グリーンの声で、違和感の正体を認識した。
思わず、顔を見合わせる3人。

「ね、ねえ、入るのやめよ?この部屋なんだか嫌だよ」
「お、う…、そうだな、特に何にもなさそうだし」
『うぅ…ぐ、うう…』
「!?」

テレビに背を向けて扉を閉めようとした瞬間、背後から聞こえる呻き声。
反射的に振り向けば、先ほどまで砂嵐だったテレビに、何か映像が映っている。
ずいぶんと古い映像のようで、白黒に移るそれは嫌が応なしに3人の不安を書き立てた。

カン…カン…カン…カン…

何かに釘打つ音が、やけにリアルに耳に響いた。
見たくない、そういった思いと裏腹に体は動かず、目は画面を追ってしまう。

そこには真っ白な着物を着た少女が、社の前に建てられた板に、手足を打ちつけられている様子が映されていた。
杭の刺された手からは血が滴り落ち、少女は苦痛の音を漏らす。
そんな少女を無視して、布で顔を隠した宮司のような恰好をした大人たちは、少女の四肢に淡々と杭を打ち続けた。

『いたい、いたいよお…う、ぐぅ…』

少女は痛みを訴えながら、苦痛に耐える。
泣き叫ばず、痛みを受け入れるように漏らされるその声が、余計に耳障りだった。

『あ゛、い、だいぃ…ううぁ』

ずいぶんとアングルが低い、まるで子供が見ている映像のようだ。
少女は俯いていて顔が見えない。

「硝子目ハ村に禍ヲ呼ブ…、許セ、村ノタメナノダ…」

1人の女性がそう呟きながら少女に近づく。
俯いていた彼女が、顔を上げた。

その瞳は、青く光り、月明かりを透き通していた。

ゆっくりと、少女の顔へと手を伸ばす女性。
そしてその指は、大きく見開かれた少女の瞳へと沈んでいく。

ぎゃあああああああああああああああああああ!!

「ひっ…」

ぐちゅ、ぐちゃ、うじゅ…

その悲惨な映像に耐え兼ね、リーフが目を背けた。
ぴちゃり、というリアルな水音が、3人の脳を刺激する。

「なんなんだよ、これ…」
「リーフ…?どうしたの?」
「う、うぅ…あっ…」

すると、突然リーフが先ほどと同じようにうずくまり、顔を抑えはじめた。
映像に当てられたのか、はたまた本当に先ほどと同じように痛むのか。
痛みに耐えるような苦しそうな声を漏らす。

その声は、先ほどみた映像のものとそっくりだ。

ザザザザザザザッ

「っ!?」
「なんだ!?」

映像が終わったらしい、画面は砂嵐に戻っていた。
リーフから目を離し、警戒するようにテレビを見つめる2人。
突然の衝撃的な映像に、脳が付いて行かない。
軽くパニックを起こしながら、レッドとグリーンは平静を取り戻すべく必死に頭を整理した。

「リーフ…?」

ふと、落ち着いてきた脳が異常に気付いた。
先ほどまで呻いていたはずの、リーフの声が聴こえない。
不安になってリーフがうずくまっていた方を見る。

「リーフ、リーフ…?」

そこに、彼女の姿は無かった。

「…どこに行ったんだ?」
「動く気配なんてしなかった」
「…探そう!」

まずい気がする。
本能的に、2人はそう直感した。

走ったわけでもないのに、心臓がバクバクと激しく脈打つ。
恐怖で体が動かない、そう表現するのが最も近いだろう。
しかし2人は、リーフを探すため、背筋が凍るような悪寒と寒気を抑え込み、無理やりに体を動かした。






リーフはすぐ隣の部屋にいた。
右側のベッドに腰掛け、にこにこと楽しそうに笑っている。
見たところ、もう体に異常はなさそうだった。

「ふふ、そうなのっ!とっても綺麗なのよ!」

先ほどの恐怖はぬぐえないものの、リーフを見つけたことで安堵したのだろう。
体が軽くなり、思わず2人はため息を吐く。
その表情も、心なしか安心の色が浮かんでいた。

「リーフ!お前こんなとこにいたのか。勝手に動くなよな!」
「まあ直ぐに見つかったからよかった」
「…やっと見つけた、はやくお姉ちゃんに届けてあげるからね!」
「は?」

どうも様子がおかしい。
話しかけても一向に彼らの方を見る気配がない。
それどころか、先ほどから何もないベッドに話しかけている”のだ。
それも本当にうれしそうに…。

「どうなってんだよ…」

うふふ、と楽しそうなリーフの笑い声が部屋に響く。
その異常とも言える姿に、レッドとグリーンは戦慄した。

「リーフ?お前、何してるんだ…?」
「ふふ、きっとお姉ちゃんに似合うわ!」
「誰と話してるんだよ…、おいリーフ…」

2人の存在など視界に入っていないらしい。
ただ満面の笑みでベッドに話かける幼馴染。

「リーフ!!」

堪り兼ねたグリーンが駆け寄り、彼女を揺さぶる。

ぐるん。

リーフの顔が、勢いよくグリーンの方へと向いた。
その目に宿る敵意に、一瞬、グリーンがたじろぐ。

「(リーフじゃねえ…!)」

息を飲むグリーン。
しかし。

「…ぅ、ぐりーん、く…」

彼の呼びかけに反応するように、苦しそうな表情を浮かべながら名前を呼ぶリーフ。
そのまま、彼女は意識を手放した。

倒れるリーフの様子に我に返ったグリーンが手を差し伸べる。
続いてレッド。
リーフは顔面蒼白と言ったところで、顔に血色がない。
体の芯は熱いのに、手は氷のように冷たかった。
息も荒く、大量の汗をかいている。

「リーフ、おいリーフっ!しっかりしろ!」

ただならぬ彼女の様子に、焦りを覚えたグリーンが乱暴に揺れ起こす。
レッドは2人をかばうように入り口を警戒し、リーフをグリーンに委ねた。



*



「ん、んぅ…」
「リーフ!目ぇ覚めたか!」

ゆっくりと開かれる瞼に、ひとまず安心しきった声をグリーンが漏らす。

「リーフ、大丈夫?」

レッドも入り口から目を離し、リーフの様子を伺う。
目を覚ましたことで、呼吸も落ち着いたようだった。
体こそだるいのか、グリーンに預けているが、先ほどのような危機感はない。
ほっと息を付こうとしたところで、レッドはある違和感に気付いた。

リーフの目から、涙が溢れている。

「リーフ、お前大丈夫か?」
「……ん、う」
「リーフ、ボク達がわかる?」

嗚咽を漏らすようなものではなく、ただ生理的に、静かに、涙をこぼしている。
そっと優しく、覗き込むように尋ねるレッド。
こくり、と頷くヒロイン。

「レッドくん、グリーンくん、ごめん」

なぜ泣いているのか、彼女自身も分かっていないのだろう。
不安気なその声からそう推測した2人は、そのことに関してリーフに追及することはやめた。
ぐっと止まらない涙をぬぐいながら、リーフはもう1度、「ごめん」と呟いた。

「いいよ。…でも、はやくここは出よう」

力なく、こくり、とリーフが頷く。
涙は止まったようだ。

「レッド、先にこの部屋調べようぜ。すげー嫌な感じがするけど、たぶん、何かある」

そんな彼女の様子に安心したのか、グリーンが冷静な判断を下す。
他の部屋とは違う、そう思っていたのはレッドも同じだった。
しかし。
レッドの心配はリーフにあった。
涙が止まったとはいえ、この部屋には何かがある、それは間違いない。
間違いないからこそ、それに強く反応しているリーフを、この部屋に長居させたくなかった。

「リーフ、お前この部屋にいるのしんどいか?」
「ううん…。もう平気、ごめんね。わたし、わけわかんなくて…」
「ならよかった。わけわかんねえのは、俺達も一緒だから気にすんな。…もしこの部屋にいるのがしんどくなったら、遠慮せずに言え。俺かレッドが付き添って廊下に出るから。いいな?」
「…うん、ありがとう」

グリーンも同じ気持ちだったのだろう。
レッドが言うよりも先に、そうリーフに伝える。
少し落ち着きを取り戻したとはいえ、彼女がまだパニック状態にあることには間違いなかった。
部屋を捜索することで、気をそらし、少しは冷静さを取り戻せるかもしれない。

「無理はしないで」

レッドは無言でリーフに近づくと、大丈夫だという気持ちを込めて、ぽんぽんと彼女の頭を撫でた。
やっと、安心したように息を漏らす。

「じゃあ、調べるぞ」

グリーンの力強い言葉に、2人もしっかりと頷いた。




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