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昼間とは違い、不気味な雰囲気のただようハクタイの森の中を、月明かりを頼りに進むレッドとグリーン。
幸い森は補正されているため、草木の生い茂る場所さえ通らなければ足元への注意もそれほど必要ではない。
2人は、ただ無心にリーフの後を追った。





しかし、森に入ってほどなく、まっすぐに進んでいたリーフが右へと曲がる。
そこは、見覚えのある場所だった。

「…おい、あそこって」
「うん。昼間見た洋館だ」

洋館の方へ、何の迷いもなく入っていく姿を確認しながら小声で話す2人。
夜の暗闇のせいなのか、月明かりに照らされるそれの雰囲気は昼間にも増しておどおどしおており、恐ろしかった。
実際にその異様な雰囲気に飲まれ、リーフに声を掛けるタイミングを逃してしまっている。
いかにも、といったその洋館に気を取らていると、ふいにギギギ…と耳障りな錆びついた音が当たりに響いた。
音のする方へ視線を送ると、リーフが洋館の周りに囲われた大きな門を開けている所だった。
否、開けているというよりも、開いているといった方が正しいのかもしれない。
その門は彼女の体力から考えても到底開けられるようなものではなかったし、なによりリーフは手を添えているだけであってとても力を込めているような様子ではなかったのである。
そんな様子を、固唾をのんで見つめるレッドとグリーン。
開けられた扉が閉まる、ガチャンという重低音が鼓膜を刺激するまで、彼らは動くことすら忘れていた。
リーフの姿が暗闇に紛れたところで、ようやく2人は我に返って顔を見合わせる。

「…まじでここに入るのかよ」
「しょうがないだろ、リーフ入ってったんだし。ほら、行くよグリーン」

異様な雰囲気に戸惑いを見せるグリーンを一蹴し、レッドは門の方へと足を向けた。
仕方なく、グリーンも後に続く。





「おい、なんだよこの木。リーフが通る時、こんな木無かったよな?」
「うん。でもこの木…」

彼らの目の前には、行く手を阻むようにある小さな木。
見覚えがある。
たしか昼に来たときもこの木は有った、そのせいで中の洋館に入れなかったはずだ。
だが。
グリーンの言うとおり、確かに先ほどリーフが通った時、こんな木は無かったのである。
一瞬だけ消えていた、そういわれる方がしっくりくる。

「くそっ、どーなってんだよ!とにかく乗り越えて中に入ろうぜ」
「あぁ」

木、といっても小さな木だ、なんとか出来ないレベルではない。
手頃な枝に足をかけてよじ登る。

「よし、行けそうだぜ」

確かめるようにそう呟くグリーンの後を続いた。
ただ無心に、余計なことは考えてはいけないと、そうレッドの直感が告げていた。






「畜生、やっぱり鍵がかかってやがる!」

木を乗り越え、草をかき分け門まで進んだ2人だったが、案の定その門は固く閉ざされていた。
力任せにガチャガチャと揺するが、開く気配はない。

「鍵っていうより、何かが反対側から抑え込んでるみたいだ」

手応えからそう推測するレッド。
その横ではグリーンが思い切り門に蹴りを入れていた。

「あーもう、わけわかんねえ。壊せるような感じでもねえし、くそ」

通常では考えられない状況に、頭が付いて行かない。
だが、リーフのこともあり引き返すことも出来ない。

「リーフ、無事ならいいけど…」
「わかんねえ、とにかく早いとこ見つけて無理やりにでも連れ帰るぞ。明らかに様子おかしかったし、あれはヤバいだろ」
「うん…。とりあえず、他に入れそうな所がないか探そう。窓も多いし、どこか抜け道みたいなとこがあるかも」
「そうだな。月明かりがあるっつっても暗いし、別々に調べたら合流すんの難しいかも知れねえな。効率わりいけど、一緒に探すか」
「あぁ。…グリーン、あっちに小屋みたいなのが見える」
「あ?どこだよ」

レッドが指差す方向に目を凝らすが、あたりが暗いせいで小屋などは見当たらない。

「こっち」

そんな彼の様子も分かっているのか、スタスタとそちらの方向へ進むレッド。
さすがに見失ったらかなわないので、文句を言わずに素直に後に続く。



近づくと、確かにそれは小屋だった。
小さく、ボロく、錆も目立つ。
隣の洋館とは、ずいぶんと赴きが違った。

「なんだこの建物…」
「わからない、入ってみよう」

そう言うや否や、ドアノブの部分へ思い切り蹴りを入れるレッド。
ガンッという重い音と共に、付いていた取っ手が外れる。
どうやら、鍵を壊したらしい。

「おいレッド…」

予想だにしなかった幼馴染の過激な行動に、しばしあっけにとられるグリーン。
しかしそんなグリーンの様子などどこ吹く風と、レッドは錆びついたドアを開けた。
ギギ…という音と共に開かれたその扉から、埃っぽい湿った空気が漏れ出てきた。
思わずゴホゴホと咳き込む2人。

「…っ、ずいぶん長いこと、開けられてなかったみたいだ」

腕で口を覆いながら、月明かりで中を伺う。

「暗くて何も見えねえな…、うわ!?」

ふいに、グリーンが足元にあった何かを踏み、しりもちを付いた。
衝撃で舞い上がる埃に、再び咽る。

「…ってえ。くそ、なんだいったい!」

苛立たしげに声を荒らげるグリーン。
息を整えながら、レッドはグリーンが躓いた原因を拾い上げた。

「グリーン、ほらこれ。お手柄かもよ?」
「…懐中電灯?」
「うん。非常用だろうね、たぶん入り口に置いてあったのを、ボクがドアを壊した勢いで落としちゃったんだ」
「なるほどな…。でもそれ使えるのか?」
「いや、放電しきってる」
「んだよ、意味ねーじゃん!」

カチカチ、とスイッチを動かしてみるが、一向に反応しない。
うなだれるグリーンの横で、レッドが何やらごそごそと動く。

「何してんだよ」
「電池、普通の単三みたいだから…。ほら付いた」

言っているそばから、懐中電灯に照らされてあたりが明るくなる。

「うわ、まぶしっ。こっち向けんな!」
「はいはい。とりあえず、明かりも確保できたし、この小屋を探してみよう」
「おう。つーか、よく単三電池なんて持ってたな」
「携帯用の持ち運び充電器。上着の中に入ってた」
「あー、そういやシンオウ来る途中で電池切れたっつって買ってたっけ。ラッキーだな」
「うん。…ざっと見た感じ、ココ、何かの倉庫みたいだ」
「だな。完全に風化しちまってるけど、食糧庫ってとこか?ものが腐りきった後だな」

懐中電灯で室内を照らし、考察する。
時間が経っていたことが幸いしていたのか、腐ったのであろう食糧は完全に風化しきっていて異臭はしなかった。
ただ、その分の埃っぽさは異常だったが。

「…ん?おい、ちょっと懐中電灯貸してくんねえ?」

グリーンが何かを見つけたのか、床のあたりに光を当てる。

「どうしたの?」
「あぁ、ちょっとここ照らしててくれ…。よっと!」

何かを確認したグリーンは、再びレッドに懐中電灯を持たせると、床に手を添えた。
そして、力強く床の一部を持ち上げる。
ガコッという音と共に床の一部が開き、中から穴が現れた。
が、案の定溢れた埃に咽る2人。

「…ふう。どーだ、すごくね?」

どうやら地下につながっているらしい。
良く見れば縄の梯子が付けられている。
地下へとつながる穴を見つけ、嬉しそうにレッドの方を見るグリーン。

「うん、すごい。地下倉庫かな?」
「わかんねえ。結構深いな」
「下が見えない。どうする?」
「じゃんけんで負けた方が入って中の様子を見てくる、ってことでどーだ?」
「…乗った」
「…行くぞ、最初はグー!じゃんけんぽんっ!」

言いだしっぺの法則というやつだろうか、恨めしそうに握られた自分のこぶしを見つめるグリーン。
一方で開かれた手のひらをそのまま顔の横まであげたレッドは、ひらひらと手を振った。
いってらっしゃい、という無言の圧力である。

「くっそ」

レッドから懐中電灯を受け取り、意を決して地下への梯子を下りるグリーン。
縄は思っていたより頑丈そうで、ギシギシと不安な音をあげながらもしっかりとグリーンの体重を支えていた。
そんな彼を見送りながら、ドアから漏れる月明かりを頼りに、小屋の捜索を続けるレッド。

「おーい、レッドー!」

だが、間もなくしてレッドは地下からグリーンに呼ばれた。
まだ1分も経っていないだろう。
穴の中を除きこむと、懐中電灯をコチラへ向けながらグリーンが何やら叫んでいる。
変に響いて聞き取りづらいことこの上ないが。
とりあえず上がってこい、と手招きすれば、伝わったようで上がってくるグリーン。

「どうしたんだよ」
「ん?ああ、食糧庫の延長かと思ったら、どうやら地下通路みたいでさ。屋敷につながってるみたいだ」

埃臭ぇけどな!と眉間に皺を寄せながら伝えるグリーン。
しかし道が見つかったことに、どことなく安心しているらしい。
先ほどまでの混乱しきった苛立たしさは薄れていた。

「やったな。なら行こう」
「おう」





地下通路は、思っていた以上にひんやりとしていて埃っぽかった。
補正ほとんどされておらず、地面を掘り進めただけ、といった感じで足場も悪く移動しづらい。
唯一の救いは、通路が比較的広いことだろうか。

「足元、気を付けろよ」
「わかってる」

お互いに注意しながら進めば、すぐに梯子に行き当たった。

「下から照らしててくれ、俺開けてみる」

先ほどの食糧庫同様、ふたのようなものがあるらしく、梯子の先は真っ暗である。
持っていた懐中電灯をレッドに渡し、梯子を上るグリーン。
しっかりと足場を確保しながら、思い切り頭上を押し上げた。
彼の推測通り、来るとき同様ガコッという音と共にふたが開いた。
うっすらと明かりが漏れはいる。
レッドはグリーンが外に出るのを確認して、梯子に足を掛けた。




着いた先は、どうやら屋敷のキッチンらしかった。
暗いところを歩いてきたせいか、月明かりだけで十分に当たりが見渡せる。
何か使えそうなものはないかと、物色するレッド。

「…どくけし?」

すると、ごみ箱の中から”どくけし”と書かれたビンをみつけた。
毒薬そのものではないとはいえ、縁起が悪い。
思わず顔を顰めるレッド。
一方グリーンは、そんなレッドを余所に食堂へと続く道を伺っていた。

「ずいぶんさびれてるな」
「そりゃ、廃屋だし。はやくリーフ見つけ出して旅館に戻ろう。なんかやばい気がする」
「…だな」

どくけしのビンをポケットに入れ、グリーンにそう返す。
屋敷に入った瞬間、先ほどまでしていた嫌な感じが、数倍にも増した気がしたのだ。
まるで、2人の存在に全力で敵意を向けられているような、殺気に近いものである。
言葉ではうまく表現できないが、彼らの本能が「ここにいてはいけない」と告げていた。

「…とりあえず進むか」

意を決してキッチンを出る2人。
瞬間、視界に入ったものに体が固まり動けなくなった。



そこに居たのは、白髪の身なりのいい男性だった。
その男性は、こちらの様子を気にすることなく、すべるように歩き、そして……忽然と姿を消したのだった。





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