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旅館に帰った三人は、温泉と夕食を満喫。
それぞれその絶景と、シンオウの食材をふんだんに使った夕食に下鼓を打った。

「くはぁー、しあわせー!」
「なんかグリーンおっさん臭がする」
「ちょ、レッドひどくね?」
「マッサージ機と扇風機かかりながら否定しても説得力ないよ」
「んだよ、それ言ったらレッドもだろ!なぁ、リーフ!」
「…え?あ、うん。そう、だね…」

ふと、リーフに話を振れば顔色が悪い。
返した言葉も歯切れが悪かった。

「おい、リーフお前大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ…」
「大丈夫そうじゃないけど。どっか痛いの?」
「…頭が少し痛くって…。あと、なんだか気分が悪いの。ごめんね」

心配する幼馴染の姿に申し訳なくなったのか、謝罪の言葉を口にするリーフ。

「温泉、長湯してたみたいだから湯冷めしたのかも」
「リーフ、明日も体調悪かったら意味ねえんだから、今日はもう休め」
「うん、ありがとう…」

見るからに元気のない幼馴染の姿に戸惑う2人。
夕食時までは元気な様子で温泉や食事を楽しんでいたのに。

「……なきゃ」
「え?」

突然、リーフがうつむいて何かをボソボソと呟きだした。
心配になり、覗きこむように彼女の様子を見る2人。

「いかなきゃ…」
「おい、リーフお前大丈夫か?」
「行くって、どこに?」
「………わたしの、あげなきゃ」

瞬間、視点の合わない目で彼女は顔を上げた。
意味が分からず、顔を見合わせるグリーンとレッド。

「あげなきゃって、何を?」
「………」
「リーフ?」
「…あ、え?」

反応しないリーフの方をグリーンが揺さぶる。
すると、我に返ったようにはっとするリーフ。

「大丈夫か?」
「う、うん」
「ならいいけど。…で、行かなきゃってどこにだよ」
「…?何が?」
「何がって…。お前が急に言い出したんだろ。行かなきゃ、あげなきゃーって」

呆れたように返すグリーンに、リーフはキョトンとして表情になる。

「わたし、そんなこと言ってないよ?」

今度は、そんな彼女にレッドとグリーンがキョトンとした。
もう1度顔を見合わせ、小首を傾げる。
リーフが呟いたのは、確かに2人とも聞いていた。
しかも、ほんの数秒前のことだ。
忘れるか、普通?
少し疑問に思いながらも、体調の悪いリーフに変な負担をかけるわけにはいかないと目配せをし、小さく頷き合う。

「悪い、聞き間違いだったみたいだ」
「そういえば、リーフ、自分の部屋に戻れる?」
「うん……」
「なんだよ、どうかしたのか?」
「……今日、2人と一緒にいてもいい?なんだか、1人でいるのが嫌だから」

申し訳なさそうにそう呟くリーフ。
そんな彼女の様子に、余計に不安になるレッドとグリーン。
リーフは昔から2人の後ろをついて回る大人しい子だったため、こうやって自分の願いを主張するようなことは滅多になかった。

「(ま、知らない土地で具合悪くなりゃ心細くもなるわな…)」

不安げに見上げてくるリーフの頭を、ぽんぽんと叩くグリーン。

「いいぜ。女将さんにお前の分の布団、こっちに移動させてもらえるように頼んでやるよ」

瞬間、安心したような表情になるリーフ。

「ありがとう!」
「その代わり、早く元気になって。ボクもグリーンもリーフが元気な方が嬉しいから」
「うん、心配かけてごめんね」
「…じゃあ布団のこと言うついでに、クスリとかも貰ってくる。何か他に欲しいのある?」
「ううん、ないよ」
「了解。ちょっと行ってくる、グリーンリーフのことよろしく」
「おう」

そういって、レッドは部屋を出て女将のところへ向かった。






「…グリーン、リーフの具合はどう?」

レッドからリーフの体調を聞き、心配した女将が部屋にやって来た。
その手には救急箱と思われる大き目の箱が抱えられている。
幸い体温を計った結果熱はない。

「もしよろしければ、街の病院までお送りいたしますが…」
「大丈夫です、頭が痛いだけで熱もないみたいだし。御心配をお掛けしてすみません」
「いいえ、ゆっくり休んでください。何かあったら、お時間なんて気にせずに、そちらに設置してる固定電話の1番でお電話くださいね」
「でも…」
「すみません、そのときはお願いします」

申し訳なさからなのか申し出を断ろうとするリーフに代わってグリーンが応える。

「素敵なお友達がいらっしゃるから、安心ですね。では、もう1つお布団の準備を致します」

そんな様子ににこりと微笑むと、女将は「失礼いたします」といって、押し入れから予備の布団の準備を始めた。




3つ並べられた布団に横になる3人。
こうやって3人で枕を並べるのは何年ぶりだろうか、などと思いながら小さい頃を懐かしむ。
しかし、レッドとグリーンの間で横になっているリーフの顔は相変わらず青白い。
長い付き合いである2人は、彼女が自分たちを心配させないように無理をしているのは分かっていた。

「…リーフ、女将さんからもらった薬飲んだ?」
「うん、まだ効かないけど、ちゃんと飲んだよ」
「ならもう寝るか」
「うん…。ごめんね、2人とも。まだこんなに早い時間なのに…」

ちらり、と枕元に置かれた時計に目をやればまだ午後10時。

「大丈夫、今日は森の中歩いて疲れたし」
「レッドの言う通り、気にすんな。つーか悪いと思うんならさっさと治せよ?明日の食い倒れツアー楽しみにしてんだからな」
「グリーン相変わらず捻くれてる。素直にリーフの体調が心配だって言えばいいのに」
「るっせーぞレッド!」
「ふふ、ありがとう2人とも」
「あーもう、早く寝ろお前等!おやすみ!!」

本心を指摘されて恥ずかしくなったのか、不貞腐れたように布団に潜るグリーン。
そんな幼馴染の様子に笑みを溢し、リーフは瞼を降ろした。







ガサゴソと人の動く音で、レッドは眼を覚ました。
枕元の時計に目を向ければ、時刻は午前2時。
このまま2度寝してしまいたかったが、もしかしたらリーフの具合が悪いのかもしれないと思いなおし、様子を伺う事にした。
すると、しっかりと閉じたはずの障子が開けられ、縁側から差し込む月明かりが部屋を照らしていた。
その光を頼りにリーフの様子を伺う。

「………?」

見れば、隣で寝ているはずのリーフの姿がない、
トイレにでも行ったのだろうか。
そう思っていると、ふと障子越しに人影が横切るのを視界の端に捉えた。
はっとしてその方向に目を向けるレッド。

「リーフ…?」

思わず寝ぼけた声で思わず彼女の名前を呟く。
人影を見たのは彼らが借りている部屋の縁側、つまり庭のような場所にしか繋がっていない。
こんな時間にどうして外に…?
まだ具合が悪いのだろうか、と心配に思ったレッドは、そっと物音を立てないように体を起して外の様子を伺った。
やはり、外の人影はリーフだった。
旅館の浴衣を身に着けた彼女は、庭の端へと裸足のまま歩いて行く。
その庭は竹を模した柵で部屋ごとに区切られているのだが、内側からのみ鍵を開けられる小さなドアを開けると、そのまま旅館の裏口へ続く道へと出ることが出来る。

「リーフ!」

咄嗟にリーフが外に出ようとしていると判断したレッドは、今度は彼女に届く大きな声で名前を呼んだ。
…しかし、彼女は足を止めない。
カチャ、という無機質な音を響かせ、柵の錠を外したリーフはそのまま振り向くことなく柵の向こうへと消えて行った。
予想外の光景に唖然とするレッド。
だがすぐに持ち前の冷静さを発揮する。

「グリーン、起きて」
「んあ…?れっど…?」
「寝ぼけても別に可愛くない、とにかく起きて」
「…まだ暗いじゃん、いま何時だよ」
「2時」
「…はあ?ざけんな、寝る」

2度寝を決め込もうとしたグリーンに、レッドは1つ小さくため息をつく。

「リーフのこと心配じゃないの?」

リーフの名前を聞いた瞬間、飛び起きるグリーン。

「リーフ!具合悪いのか!?」

瞬時に彼女の体調のことを思い出したのか、本来彼女が寝ているはずの方を見る。
誰もいないそこをみて、すぐにレッドの方へ視線を移した。

「病院に運ばれたのか?」
「違う、どっかに行った」
「……は?」

ただリーフの心配をするグリーンに、レッドはきっぱりと言った。

「とりあえず付いて来て、リーフを追いかけながら説明する」
「おい、ちょっと待てどういう」
「いいから、行こう」

グリーンの意見など全て無視して、リーフの分の靴を取り彼女の後を追うレッド。
一体何が起こっているのか把握しきれないグリーンだったが、レッドがリーフのことで冗談を言わないのは重々知っている。
寝起きで体の動きが鈍いが、グリーンはとりあえずレッドの後を追った。






「…いた」

旅館から出てすぐに、2人はリーフを見つけた。
虚ろな表情をして、ひた、ひた、と歩を進める彼女は、ゆっくりと西の方へと向かっているところだった。

「…ホントにリーフだ。何してんだアイツ」
「わからない、夜中急に起きたみたいで…。気付いたら外に向かって出てた」
「何だそれ、訳分かんねえぞ」
「ボクだって分かってない」

ちいさな声で話しながら、声をかけるなどせずただ彼女の様子を伺うレッドとグリーン。
彼女の発する、いつもと違うただならぬ雰囲気に飲まれ、声を掛け損ねているのだ。
その間にも、リーフはどんどん先に進んでいく。

「おい、あっちって…」

次第に、彼女の向かう先にグリーンが不安げな声をあげた。

「……ハクタイの森」

森の中へと入っていったリーフの後姿に、レッドは重々しげに呟いた。








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